第17話 突撃隣の昼ご飯in〇ねす……シルキー
「……んあ? あー……いま何時?」
──目が覚めて、時計を確認。昼過ぎです。
「んー、遅刻ぅ……」
完全に寝過ごしましたねコレは。今日は一限から講義が入ってるので、挽回の余地がないタイプのアウトです。
「……サボるかぁ」
思考は一瞬。そして決断。午後の講義もあるにはあるが、所詮は一コマのみ。わざわざそのためだけに大学に向かうのも億劫なので、スパッと切り捨てることに。
もうすでに講義をサボっているのだから、いまさら一つ増えたところでというやつだ。大学は自己責任の世界なので、自主的に休日を決定できるのが素晴らしい。
「やっぱり大学なんだよなぁ」
これが高校とかだとこうはいかない。サボりがバレたら、生徒指導一直線だ。それに比べて、大学の自由度たるや。……ま、過度なサボりは落単という形で返ってくるのだけど。
ただ幸いなことに、俺は真面目寄りの学生である。何かしらの理由がなければ、講義をサボったりすることは基本ないので、出席日数的には余裕がある。
抜き打ちでテストなどが実施されない限り、単位を落とす心配はあるまい。万が一テストの類いが実施されても、体調不良と言っておけば救済処置はもらえるだろう。
「ま、ともかく。飯だ飯」
寝起きとはいえ、時間的には昼飯時。ついでに言えば、睡眠時間もそこそこ長い。
つまり腹が減った。なので冷蔵庫にごー。……袋麺の台湾まぜそばがあった。
「丼は……」
フライパンに水貼って加熱。その間に付属のタレを袋ごと丼にイン。そんで魔法瓶でまだギリ熱めなお湯をじょぼぼ。
そしてフライパンのお湯が沸騰するまでに、アレンジ用のスライスチーズ、コチュジャン、ブラペ、卵、やっすい穀物酢、チューブにんにく、追い飯用の冷凍白米を用意。
あとは麺を茹でつつ、緩くなったタレに材料を適宜ぶち込んでしばらく待ちーの。
「アチチッ……」
茹で上がった麺をザルに移して、そんで丼にドボン。最後にチーズを溶かすために四十秒ほどレンチンして、そこに卵を落とせば、はい完成。
「……あ〜」
一口啜り、そのあとコップになみなみ注いだお茶をゴッキュゴッキュ。……もうコレで幸せ。寝起きの胃にガツンと台湾まぜそばの旨味が染み渡るんじゃぁ。
「にしてもこのまぜそば、コチュジャンとブラペ足さないとパンチが弱いの、なんとかならんのかねぇ……」
監修店のヘビーユーザーとして感想ではあるのだが。メーカーにはもうちょい頑張ってほしかった。
いや、出してくれるだけでありがたいし、普通にありのままでも美味いほうではあるんだが。やっぱり店の味を知ってると、どうにも物足りないんだよなぁ。
近いと言えば近いのだけど……絶妙にうっすいというか、ペラい? 味の濃度とかではなく、こうインパクト的な意味で。
雑にコチュジャンとブラペを足すだけで、グッと味が店のそれに近づくのに、メーカーは何故これでゴーサインを出したんだ。あと一歩なんだぞ本当に。
そこを改善してくれれば、味を好みに整える手間が減って助かるのに。手順通りに作って、そこにチーズと卵をぶち込むだけの簡単なお仕事になるのに。
何度も言うが、商品化についてはありがたいことこの上ないんだ。クオリティで劣るとはいえ、店で注文するよりも遥かに低コストかつ、簡単な調整で近い味になるのだ。
本来の調理の手間を考えれば、家で店の味に『近い』ものを楽に食べられるのは素晴らしいことだ。
──だからこそ、あと一歩足らないのが余計に目立つ。痒いところに手が届かないが如き口惜しさ!
「んぐっ……そろそろ酢」
いっそのことメーカーのほうに改善案を送ってやろうかしらと考えつつ、穀物酢を適当にぶち込んで味変。
んー、このマイルドになった感じがまた堪らないんだよなぁ。酢を入れるだけでも大分変化があるから、台湾まぜそばは食べてて飽きない。
「やっぱり店みたいに、昆布酢とか常備するべきだろうか……」
いやでも、袋麺の味変のために作るのも手間だし、買うとなればもったいない。だって絶対に持て余す。味変の消費量などタカが知れてる。
まあ別に他の料理で消費すれば良いのだけど。なんだかんだ現状でも満足しているし。昆布の風味があったほうが絶対に美味いのは間違いないが、なくてもまあそれはそれだし。
まあしいて言えば、味変してしばらくすると、元のパンチの効いた味が恋しくなるのが……いやコレは昆布酢云々は関係ないな。
「追い飯いくかぁ……」
消費者として曇りなき眼で丼の中を見定めいたら、思いのほか箸が進んで麺が消えた。
というわけで追い飯フェーズ。箸をシンクに投げ捨てスプーンを装備。そんでレンチンした冷凍ご飯を残ったタレにイン。
「あ〜……」
タレと白米のマリアージュ……。やっぱり追い飯まで貪っての台湾まぜそばよなぁ。
もっちゃもっちゃと噛み締めつつ、無心で白米をかき込んでいく。……タレの味が濃いからか、気付いた時には体感で麺以上の白米を投入していたのはご愛嬌だ。追い飯とは。
「んー、満足。ただそれはそれとして、口の中が濃ゆい」
起き抜けの昼飯にしてはヘビィな品を食べたせいか、どうにも後味がスッキリしない。
純粋に味付けが濃いめだからというのもあるが、一番の原因はトッピングにぶち込んだチューブにんにくだろう。
アクセント程度にしか投入してないとはいえ、やはりにんにくはにんにく。ただでさえチーズと追いコチュジャンで濃厚になったタレだ。そこににんにくの風味が加わったら、味の厚みが倍々でドンである。
「口直しになるの、なんかあったかしら……?」
お茶でリセットするには、少しばかり主張が強い。できれば何か……手軽につまめる甘いものとか上書きしたい。
人体とは不思議なもので、塩っ辛い物を食べると、次に甘いものが食べたくなる。あまじょっぱいの無限ループはバミューダトライアングルの如しである。
「あ、そういや確か……」
そこでふと思い出した。昨日のバイト終わり、常連のガールズバンドの人らから、ケーキ屋の焼き菓子詰め合わせを貰ったっけ。
曰く、タチの悪いナンパから、メンバーの一人を庇ったお礼とのこと。言われて思い出したが、確かに結構前にそんなことをした記憶があった。
なんで今更とは思ったが、会話の途中でそのエピソードが話題に挙がって、改めてちゃんとお礼をしようという流れになったそうで。随分と律儀なことである。
「んー……」
しばらく悩んだ末、マカロンの出来損ないみたいなやつをチョイス。
付属のお品書きっぽいの曰く、マカロンクッキーというらしい。簡単に言えば、マカロンの生地を焼いたお菓子とのこと。
マカロンはそんなに食べたことはないが、あのぬちゃっとした部分が美味いのは知っている。それがない生地だけのお菓子とは、はたして美味いのだろうか?
「……」
いざ実食。その味を確かめんと、包装を破こうとした瞬間──玄関のほうからガチャリと物音。
「ただいまー。……って、遥斗君!? 何でいるの!?」
「……」
もはや見慣れたストーカーが、我がモノ顔で部屋へと上がり込んできた。
それはそうと、家主が家にいて何が悪いんだよ。いや大学はサボってるけども。あと『ただいま』はヤメロ。
ーーー
あとがき
特に他意はないですが、私の好きなお店の一つは麺屋〇〇ろです。袋麺もよく買ってます。スライスチーズとブラペとコチュジャンを少量加えるとうみゃいです。
それはそうと、トラブル防止のため、設定や内容に関する部分は、今後あとがきで触れることを控えようと思います。既存の部分も削除予定ですので、ご了承ください。
今後のあとがきは、事務的なお知らせか、個人的なネタに限定する予定ですので、何卒宜しくお願いします。
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