第14話 シルキーさん……?
「……はぁ。いろいろ言いたいことはあるけど、警察沙汰にまで発展しそうにないのは分かった。一旦矛は収めてあげる」
「本当に!? じゃあもう正座やめていい!?」
「夏帆。悪いんだけど私と蘭のギターケース持ってきて。中身入れて蘭の膝の上に乗せるから」
「それ江戸時代の拷問!!」
「私のベースはいらないの?」
「夏帆さん!?」
反省の色が全く見えなかったので、容赦なくお仕置きを追加。矛を収めるとは言ったが、誰も怒ってないとは言ってないんだよ。一時的に追及を止めるだけだわ。
「ちょっ、痺れた足に中身入りのケース三つは洒落になんなっ! というかバランスがですね!?」
「分かってると思うけど、ケース落としたら怒るからね。罰として楽器の手入れも追加で」
「他人の楽器弄れと!? 下手なことして使用感変わったら絶対怒るやつじゃん!」
「嫌なら落とすな。自分の失言を呪いながらちゃんと抱えろ」
「メグさんさては相当オコだね!?」
「当たり前でしょ」
いままでの会話で、ブチ切れない要素がどこにあるんだって話だ。蘭を除いた全員が、表に出てないだけでしっかり切れてるっての。じゃなきゃ夏帆も重しの追加を提案しない。
「あのね、私たちが話を聞いてどれだけ焦ったと思ってるわけ? これまでの活動が、アンタのせいで全部パァになるとこだったんだけど? そこんところ理解してる?」
「……スミマセン」
「謝罪しろって言ってんじゃないんだよ。……いや謝罪はもちろんいるけど。ただ謝っただけで済むレベルじゃないってこと。分かる?」
正座の体勢で、必死にギターケース三つを保持する蘭の顔を覗き込む。
カタカタと身体を震わせ、顔には怯えの表情。それでもしっかり突きつける。誠意を見せろと。
「ご、ご迷惑をお掛けした分、全員のお好きなお店を奢らせていただきます」
「店員さんとのメモリーを赤裸々に話せ」
「……え?」
「金銭で解決しようとしてんじゃないよ。アンタが金欠になったところで、結局割りを食うのは頻繁につるんでる私たちなんだ。なら奢りとかいらんから、代わりにメンタルで払え。羞恥で悶えて反省しろ」
蘭は考えなしの馬鹿だが、なんだかんだで初心な部分がある。それは長い付き合いで良く知っている。
意中の相手に真っ当なアタックすらできず、空回りの果てにストーキング行為に発展したのは理解できないが……。それはそれとして、私たちに惚れたきっかけを語ることにすら抵抗感を覚えていたわけで。
ならばそこを突くのは当然。金欠なんて一過性のものよりも、羞恥に震えながら黒歴史を追加させたほうがダメージはデカイだろう。
「あ、あの、メグさん……? ウン万円のお店でも構わないので、そ、それだけは勘弁してくれませんでしょうか……」
「ああ、やっぱりお金は駄目だね。お嬢様の蘭にはそこまで痛手じゃないっぽい。ならやっぱり、嬉し恥ずかし甘々メモリーの開示だね」
「お願いします!! それだけは勘弁つかぁさい!! 奢りなんてまどろっこしいことしないで、現金をお渡ししますから! なんなら土下座して靴を舐めますので! どうかっ、どうかご勘弁を!!」
「ケース抱えてどうやって土下座すんの?」
「アレまさかこの体勢は続投ですか!? 拷問ポーズで羞恥プレイしろと!?」
当たり前だろ。反省を促すためのお仕置きなんだから。今日は終わりまでそのままだよ。
「夏帆! 冬華! 助けてメグが予想以上に容赦ない!」
「駄目だよ蘭ちゃん。ちゃんと話さなきゃ」
「面白そうだからこのままで」
「ああちくしょう!? こっちも恋愛ジャンキーとローテンションサディストだった! 逃げ場なしのやつだこれ!?」
「罪に対する罰なんだから逃げようとすんじゃないよ」
「でもこれ私刑じゃん!」
「へぇ?」
「スイマセンデシタ」
よろしい。即座に謝ったから重しの追加は勘弁してやる。
「それじゃ、キリキリ吐いてもらうとして。二人とも、なんかリクエストある?」
「結局のところ、何処まで進んだの? ヤルことヤッた?」
「ストーップ!! 冬華アンタ、開幕から飛ばしすぎじゃない!? というか何でそうなったの!?」
「え、だってマトモな接点もないストーカーを受け入れるなんて、身体が目当てでもなきゃしないはず。なら最低でもセフレか、それに近い立ち位置になってなきゃおかしい」
「そこはせめて恋人にしてくれない!? いやそもそも、遥斗君はそういう人じゃないよ!!」
「でも蘭ストーカーじゃん。ストーカーを恋人にするのは流石にない。セフレですらギリギリだと思うけど」
「クッソッ、絶妙に説得力ある反論を……!? というか、よしんば私と遥斗君がそういう関係だったとして、普通友達の情事とか訊く!? 気まずいにもほどがあるでしょ!?」
「いや、別に興味があるわけじゃない。ただコレは、蘭への罰としての羞恥プレイ。だから訊いてるだけ」
「相変わらずのド畜生だな!?」
まあ冬華ってそういうところあるし……。私も容赦ないなとは思ってるけど。
ただそれはそれとして、蘭の反応を見る限りだと、そこまで関係性が進んでいるわけではないらしい。
やはり店員さんはそっち関係では信用できそうだ。そして蘭は蘭で、相変わらず妙なところで初心というかなんというか。
「ま、まあ冬華ちゃん。私もいきなりそれは飛ばしすぎだと思うから。最初はジャブぐらい、普段の会話とかから始めよう?」
「あの、夏帆さん? その言い方だと、暖まってきたらそっち方面に進むってことですよね? フォローしてるようで、フォローしてないやつですよね?」
「蘭。そういうのいいから、さっさと答えて」
「いやあんまり良くないんだけど!?」
キャンキャンうるさいなぁ……。腹括れって言ってんだよ。キリキリ吐いて黒歴史を量産しろ。その上で教訓にしろ。
「……」
「おーい。黙秘権なんて許してないぞー」
「……っす」
「あん? 声小さくて聞こえないんだけど」
「いまのところ! プライベートで遥斗君とマトモに会話したことはないです!!」
「……はぁ?」
オイコラちょっと待てよ。それだとまた話変わってくるだろうが。
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