第2話~小説と現実の混合~
そして夕食の時間がやってきた。先程まで女将さんは廊下の掃除をしており、すぐに料理なんて用意できるはずがなかった。なんてったってこの旅館には旧友と女将さん以外存在していないからである。しかし女将さんは部屋へやってくるや否やすぐに夕食を運ぶと言い、五分ほどした後鉄製のカートに刺身盛りや鴨鍋などかなり豪華な料理を乗せてやってきた。どうせ冷凍でもして保存していたんだろう。そう思っていた。しかしご飯からはしっかりと湯気がたち他のものも冷えてる様子はなく出来たてと言わざるを得なかった。一体誰が作っているんだろうか。そう思った旧友は女将さんが廊下の角を曲がったのを確認し調理場へ向かった。誰もいない。先程まで話し声が聞こえていたはずなのに誰もいない。それどころか調理場は使われた様子がなく鉄製のカートだけが入口近くのテーブルの横に置いてあったという。ここで私は何故かものすごく違和感を覚える。この話どこかで聞いたことがあるような気がしてならないのだ。しかしかきのやに泊まったことがあるのはその旧友以外に絶対に居ない。これまでかきのやについて知るために様々な人に声をかけては聞いてきたのだ。そしてようやく見つけたのが旧友である。時間が無いと言っていた旧友をやっとのことで説得して今こうして聞いているのだ。だからこれまでに聞いたことあるはずがなかった。一体どういうことなんだろうか。思い出せない。どこかで聞いた話のはずなのに…いや聞いたと言うより読んだ……
あっ…そうだ…
小説である。かなり昔地元の本屋で何気なく手に取った本の内容と酷似しているのだ。そう、確か題名は「小説家と料理人」だったはずだ。その本で出てきた料理人の経営している旅館とかきのやが1寸の狂いもないほどに酷似しているのだ。私は旧友が嘘をついている。そう察した。そして旧友を問い詰めた。しかし旧友はそんな本は知らないし実際に行った。写真もあるとの事だった。そしてその写真を見せるよう攻め立てた。旧友は真っ暗なスマホのディスプレイをこちらに向けてこれが証拠だと言った。しかし旧友が提示しているのは真っ暗なディスプレイだ。でも旧友が嘘をついているようには思えなかった。思えなかったというか確信だ。でもなんで確信できているのか分からなかった。これなんだなともはや見えていないはずの写真が見えているような感覚に陥ったと同時に、かきのやへ行かなくてはならないそんな衝動にかられいてもたってもいられなくなった。そして旧友と代金を置いて待ち合わせ場所にしていた喫茶店を飛び出した。そうあの小説「小説家と料理人」の小説家と同じように…
continue to next time…
人選択旅館かきのや かみコップ @kamiccopu
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