第4話 積乱雲の気配

「え……帰った?」


衝撃のあまり、マヌケな声が口から飛び出した。

どうして、何かあったのかなと、呟く心。

ときわのクラスメイトが続ける。


「うん……なんか急いでる感じだったから用事があったのかも……」


「あ、用事か……わかった。 ありがとう」


「いえいえ」


どんな用事だろう、まあ聞けばレインで教えてくれるか。

と思いつつも、状況に納得が行った陽葵は、「じゃあ私も帰ろっか。 じゃーねー」と挨拶した。


「う、うん。さようなら」と、挨拶を返す名前も知らないときわのクラスメイトに手を振ると、学校を後にした。



いつもなら、ときわと通るこの通学路。

1人で通るとまた違った雰囲気で、新鮮に思えた。


来年、卒業したら通れなくなりそうな道だということもあり、その新鮮さが少し寂しく感じるが、まあ、こんな日もあるよと、自身に言い聞かせる事で納得させる。


聞いてみるか。


私は、寂しさを誤魔化すために、レインを開くと、ときわに『ねーときわ、クラスメイトが急いで帰ったって言ってたけど、急用入った?』と聞こうとする。


しかし、ふと雑念が入り、躊躇ってしまう。


これ送ったら、めんどくさい人って思われるかな、というものだった。


実際、自分がめんどくさい事なんて、よく知ってるし、そんな一面を、ときわにはよく見せてきた。


でも、ふと思ったのだ。


今更なんで、とは思ったがこういう気持ちは、一度現れたら中々消えてくれない。


何より、今まで当たり前に出来てた事のハードルを上げてしまうんだ。


私は、メッセージをそのままにレインを閉じて帰路に着いた。


モヤモヤする……めっちゃモヤモヤする……。

聞きたい……めっちゃ聞きたい!


急いで帰るって、一体どんな用事なんだろう。


全然連絡して来ないし、よほど、忙しいんだろうなぁ……。


茜がかった空をぼんやりと眺めて陽葵は思った。


でも、いっしょに帰りたかったなー。


***


言えない────


本当は陽葵と帰りたかったけど、陽葵のことを考えるとドキドキしてしまって、それが怖いから逃げるように帰ってきただなんて。


その時、ときわは────家にいた。


朝撮った陽葵の写真を写真立てに入れて、棚の上に飾ると、スマホを取りだしてメッセージの確認をする。


来ていない。


少し意外に思った。 普段の陽葵なら『なんで先に帰っちゃうの?』くらい聞いて来そうなものだけど。


もしかして、友達と話してて忙しい……のかな。


昼休みも、今みたいに怖くて行けなかったけど、多分友達と話していたんだと思う。


いつもは、私合わせて四人で話してるけど、今回は三人で。


もう放課後になって40分は経つ。

連絡を忘れるほどだから、よほど、盛り上がってるんだろうな。


私も、混ざっておけば良かった……かも。


そう私は、カーテンを締切った茜色の部屋でぼんやりと、宙を眺めた。


あ、でも一応、早く帰った理由は言っとくか。

あと、何も言わずに帰ったことを謝って……ってそれは気にし過ぎかな。

いや、申し訳ないし謝っておこう。


そう思いつつもときわは『ホームルームの後、スマホを確認したら親に買い出し頼まれてたから、急いで店に行った』と、苦し紛れの嘘をついて謝った。


陽葵は、『気にしなくていいよ! 買い出し頼まれてたなら仕方ない! 私だって急ぎで店行くと思うし!』と、語尾に微笑ましい絵文字を付けつつ、優しくフォローまでしてくれた。


罪悪感が胸に萌して、思わず小さなため息を付いてしまう。


私って、ダメだなあ。陽葵はこんなに優しいのに。


けれど、実際はドキドキしてしまうから避けてしまってるだなんて、言える勇気もなく、私はそのままどうすることもない苦い唾を飲んだ。


どうしてこうなっちゃったんだろ。


ふと、陽葵の優しさと笑顔を思い返して再び大きくなっていく鼓動。


陽葵……。


「ダメだ!」


私は無理やり、叫んだ。

続けて、目を覚ませと言わんばかりに両手で頬をペチペチと挟む。


「このままじゃ! 陽葵をずっと避け続けてしまう……そうなったら」


陽葵は、私と過ごす時間をとても大切にする。

今年入ってからは、尚更だ。


実際、祭りを最後まで楽しめなかった時はめちゃくちゃ怒ってたし……まああれは私が悪いけど。


でも、怒るってことはそれなりに悲しいんだろうな。


いや、悲しくて当然か。


逆の立場で考えてみる。


もし祭りが終わる寸前、陽葵が突然用事があると言って帰ったら、用事だから仕方がないとは思いつつも、ちょっとは悲しくなるし。

今日だって、もし陽葵が先に帰ってたら……モヤモヤする。


陽葵……ごめんよ。


陽葵をこれ以上悲しませないためにも、早く治さないと。 このドキドキ。


でも、どうしよう。


その時、ふと写真立てに入れた陽葵の姿が脳裏を過った。


あ、慣れれば良いんだ。


幼なじみでよく話す仲なのに、なんて考えたら、よく分からないことを言っているが、このドキドキの原因を考えた時に、これだ!と思った。


陽葵を見る事で、ドキドキに悩まされるんだったら、悩むほどでもなくなるくらい、慣れてしまえば良いんだ。


この先の事を考え、気が動転したのか……。


私は、めちゃくちゃな理論を生み出してしまったと思いつつ、陽葵の写真と見つめ合った。


それから間もなく私は───爆発した。

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ときいろのひまわり とm @Tugomori4285

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