第2話 晴天のつむじ風
最初に遊んで、最初に喧嘩をした。
唯一、心の中の悪魔を見せられる最高の友達。
そういえばこより祭りも、今思い返すと懐かしいな。
行くことになったキッカケも、人生を通してそんな印象的でも無いのによく覚えている。
小三の夏休み。 大体午後の六時半ごろだったっけ。
その時、私は家で一人。 晩ご飯を待ちながら使い慣れないスマホかざして、ゴロゴロと暇を潰していたんだけど。
そんな時に陽葵が窓を叩いて、私を祭りに誘ってくれたんだったね。
あー、その時はワクワクしたなあ。
今では馴染み深い観光地みたくなってるけど。
ふと、そんな事を思うと少し切ない気持ちになった。
もう中三か。早いなーー
気付けば、灰青色の光が瞳を射していた。
もう朝か。
伸びをしてスマホの電源を付けると、六時三十四分と、文字が現れた。
昨日、返信送ったままにして伏せたレインには、何が届いているのだろう。
チャットリストの一番上に、一件、「待ってるねー」とメッセージが届いていた。
私は、既読を付けずメッセージ欄を長押ししてトークを確認したあと、レインのアプリを終了した。
このメッセージの返信は学校でしよう。そう思ったから。
にしても、改めて見ると昨日の私、すっごい変な返信してる。的外れというか、空回りしてるというか。あー! 消して送り直したい。
羞恥心によって、アレルギー反応でも引き起こしたのか、頭皮と背筋がいやに痒くなった。
リビングへ降りて、朝食を食べ終えると、準備を済ませて玄関に向かう。
リビングのテーブルで朝食を食べてる時、ふとテレビで上昇気流が何とかって聴いたけど、昨日の夜、風が強かったのはそのせいだったか。
そして、今日も強いと。 あの風嫌なんだよねー。ちょっと時間かけて整えた髪が一瞬で崩されるから。
玄関を出ると案の定、強風に迎えられた。
髪を軽く抑えながら、家の前まで歩を進める。
やっぱ、今日は来ないよね。
一応レインを確認したけど、変化なし。
まぁ、仕方ないか。
陽葵が怒っていることを再認識した私は、少し細くなった心に軽くため息を付き、学校へと歩を進めた。
ふと、陽葵もこの強風にさらされながら学校に向かってるのかな。と、思いが脳裏に過った。
そして、風にあおられながら学校に着くと、私は思わず口を空けた。
門の前で陽葵が仁王立ちしてる……。
陽葵は、風に髪をなびかせながら、腰に手をやり、待ち伏せているような雰囲気で門の前に佇んでいた。
門をくぐる学生たちは、そんな陽葵を一瞥する。
一応、色々考えながら、一秒でも早く謝るための決心というか心の準備をして来たんだけど、その準備が不要に思えるような緊張感のなさだな。まぁ、周りに目をやってしまうと、違う意味で緊張してしまうんだけど。
というか、一体何故、いつからそこにいるんだろ。
想像すると、つい、このなんとも言えない緊張を一蹴するような失笑が、私の口を蹴飛ばした。
そして、私がある程度、門に近付いた所で、陽葵が声を掛けてきた。
「おはよ! ついに来たか、ときわよ。 私はこの時を待っていた」
何そのラスボスとの決戦みたいなノリは。 めっちゃ恥ずいんだけど。
陽葵は謝って欲しい時、よくこうやってサラッと謝まれるような、空気を作ってくれるんだけど、今回は場所と話し方のチョイスが、悪すぎる。
そう思いながらチラりと辺りを一瞥して、口を開いた。
「あ、あの、昨日はいきなり帰ったりしてごめんね。 あと、レイン遅くなったのも」
この状況でなければ、もうちょっと簡単に言えたんだけど。 多分。
辺りを往生する人は、時折私たちを一瞥し、そのまま通り過ぎていく。恥ず過ぎる。
すると、陽葵は微笑んだ。
「仕方ないなー! もう過ぎた時間は戻ってこないし。 何より、前より早く謝れた。 うん! 声は小さいけど許すとしよう!
ただ今後、同じような粗相をおかした場合は、分かるよね? たとえ前より大人になったと言っても、私はまだ未熟なんだから!」
「ありがとう」
今回もあっさりと許された。けど、今後って、あるのかな。
そして前より大人になったって……。
そんなことをふと思った。
ちなみに、前というのは中一の春のことで、これまた些細な事なんだけど、目玉焼きは醤油派かソース派かの話をしていた時に、ふと放った私の考慮に欠けた発言をキッカケに、喧嘩が起こった。
今、改めて思わなくても、中一にしては喧嘩の理由がしょぼ過ぎる。 あと私は塩コショウ派だということは、一旦置いといて。
あの時は、完全に『ソースなんて不味いに決まってるよ! 味おんちなんじゃない?』と、人の味覚を否定するようなことを言ってしまった私が悪かっんだけど。
思春期特有?の謎のプライド故か、中々自分が悪いとは認められず、暫くの間、距離を空けてしまった。
まぁ結局、遊ぶ相手いないし暇になっできたから私から謝って、仲直りしたんだけど。
今思えば、その時もやたら明るく接してくれて、おかげで謝りやすかったんだ。
最近だと、ヒートアップする前に謝ってるからあまりそういった場面は見れてないけど。
今日みたいに。
ーーあ、確かに。
ふと、心にセンチメンタルな風が吹いた。
「て、風つよっ」
そう、さらに強さを増した風に、スカートと髪を腕で抑える陽葵。
その時ーー
……え。
私の心は、そんな息にかき消されそうな、掠れた声を漏らした直後、再び息を止めた。
が、その直後、我に返り咄嗟にカメラを起動してシャッターを下ろす。
そして、少しタイミングは遅れたものの、あの時を思い出させるようなポートレートに包まれた陽葵の微笑みを、カメラに収めた。
どことなく儚げで、白っぽい朝日が辺りに丸い結晶を散らしている。
私は、ふとその写真にチラリ、目をやっては、ドキリと胸を弾ませ、再び息を呑んだ。
「カシャっ?」
すると、ムスッとしながらも、どこか笑っているような、柔らかい声で、私の元へと、がに股で歩いて来た。
「ちょっとー! 何いきなり撮ってるのー? 見せてくれる?」
「あ、いや。 これは」
「見せてよー!」
「いやー!」
結局、カメラをむしり取られて、見せることとなった。
陽葵は複雑な表情を浮かべて、さっき撮ったあの画像を凝視している。
思わず、私は目を逸らし「あ、私、教室に入ってるから後で返しに来てね」と、小声で呟き、そそくさと、この場を去ろうとするも、「えっちょ、後で返すのめんどいー」と、陽葵に軽く引き留められ、「えー」と漏らしながらズーンと速度を落とす私。
そして、カタツムリのような速度でちょっと進んだところで「ときわって、私撮るの下手くそだねっ」と少し、ふにゃっとした声が背後から聞こえて来た。
なんとも言えない恥ずかしさが身体に立ち込める。
そして、私は簡単に追い付かれ、「はいっ、 今度は上手く撮ってねー」と、カメラを渡された。
すると、陽葵はそのままくるりと、身体を教室に向け、そのまま小走りで進んでいく。
あれ? あ……。
その時、ふと、陽葵のギリギリ肩に届かないほどの髪がふありと上がって、綺麗な耳が見えた。
私は再び息を呑む。
その耳の先は朱色に染っていた。
そして、それを見た瞬間の私の鼓動はまた煩くなってくる。
この口の端が強張り、歯が柔らかくなるような感覚はなんだろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます