第5話 夏の東京旅行(後半)
東京で、美香は楽しみにしていたショッピングを堪能した。
むろん観光のほうも楽しんだが、何と言っても東京へ出てきたらお買い物である。
仙台でも通販で買えないものはないし、画面で詳細に品物を見られるけれど、実際に店舗が並んでいる通りを歩く時の気分の高揚は味わえない。
ネットでは一度に視覚に入ってくる商品の数は限られ、しかも単純な等間隔の並びで表示されるだけで、店頭のような面白さがない。
でも東京では、どの店内も足を踏み入れると非日常の特別な空間になっている。
高級感のある内装と明るい照明、センスの良い美しいディスプレイ。
モニター越しではこの感動は味わえない。
父は買い物にはあまり興味がなく、観光の方を優先していた。東京の事は良く知っているとばかりに、どこへ行っても何かしら説明することがあってしゃべり通した。
母は二人について歩くだけで、あまり自分の希望を言わないが、どこへ行っても見知らぬ人に話しかけて楽しそうにしゃべっている。
3人とも旅行用の小型バッグの中に飲物の入った水筒やペットボトルを持っていて、度々立ち止まって水分を補給した。昼食の他に午後にまたカフェに入って飲み物を飲んだが、それだけではこんな真夏日には足りない。
「外国人がずいぶん多いね。」と父が蘊蓄を中断して言った。
一行は仲見世を歩いていた。
気づいてみれば、狭い道幅いっぱいに充満している観光客のかなりの部分が外国人だった。
一目見て外国人と分かる人たちだけで3割は占めている。日本人と顔立ちが似ている国の人たちを含めるともっと多いだろう。
そして、声をかけてくる外国人も多かった。カメラを渡され、写真を撮るよう頼まれる時には喜んで応じたが、道を聞かれた時は断るしかなかった。英語ができないからではなく、東京で道を聞かれても、こちらも全くわからないからだ。
「スミマセン」と、また外国のアクセントのある日本語が背後から話しかけてきた。振り向くと、小麦色よりもやや濃い肌色の、小柄な、美香と同じくらいの年齢の女性が立っていた。
極東の顔立ちをしている。
美香も極東人種には違いないが、目の前の女性の顔は美香とは異質だった。
蒙古ひだのはっきりとした釣り目で、顔全体が扁平だ。
対する美香は、この顔に比べれば
「移民局、どっちでしょう。」と、どうにか聞き取れる日本語で女性が言った。
英語で、自分も観光客だから東京のことは知らない、と答えたが、この女性は英語がわからないようだった。
発音が聞き取れなかったのかと思い、ゆっくりと言いなおしたが、やはり通じない。
日本語で「わからない」と言いながら首を横に振ると、ようやく通じたようで、あっさりと「オーケー。」と去って行った。
浅草寺にお参りしたあとはスカイツリーを見物した。
はるか上方から東京全体を見渡したら素晴らしいだろうと思っていたが、それが期待していたほどではなかった。
確かに高い。高さだけで迫力があるけれど、それだけだった。
見晴らしとは言っても、ビルが隙間なく並ぶ中を狭い道路が毛細血管のように走っている風景が見渡す限り敷き詰められているだけで、美しいとはとても言えない。
かろうじて川面が見え、あちらの緑色の塊が旧皇居、こちらの屋根が浅草寺という具合に、まばらに目立つものが散らばっているが、その間を埋め尽くす灰色のビル群は、川岸の砂利のように、どれも同じに見えた。
スカイツリー見物が終わると、その日の観光は終了という空気感になっていた。
まだ夕食までにはかなり時間があったので、スカイツリーの周辺にある店舗でお土産を少し見て回り、続いて上野駅の方へ戻ることになった。
両親は電車に乗ろうとした。美香は彼らを引き止め、歩いて20分くらいで合羽橋へ行けるから歩こうと言った。せっかく良い靴を履いているのだから、と付け加える。
3人とも最新の素材でできた底の薄い靴を履いていた。非常に柔軟な靴底は薄いけれど強靭で、金属やガラスの破片を踏んでも怪我をしない。だから安心して裸足と同じ感覚で歩けるというものだ。
もっと若い人たちは、足の指を抑えつけないように、昔のビーチサンダルを進化させた新素材のサンダルを履いていることが多かった。そういうサンダルは、「裸足育児」で育った子供たちの、足先が扇のように広がった足に合わせた形になっていた。
人間は自然な状態で、つまり裸足で生活していると、足の親指が内側へ力強く張り出す形になり、歩行の際に土をしっかり踏み締めて蹴ることができる。
ところが乳児期から靴を履いて育つと、親指は靴の形に添って他の4指の方へ曲がり、時には外反母趾などのような異常を引き起こす。
また、人間の本来の自然な歩行はつま先から着地するのに、靴を履いて育った人はかかとから着地する癖がつきやすく、走る時にかかと着地をすると無理な負担を足全体に与えてしまう。
60年程前まで「弱点を補強する」意図で作られた靴、つまり衝撃を和らげる厚い靴底や、足にフィットすると称して土ふまずの部分にまで詰め物をしたスポーツシューズが広く使われていた時代があったが、その頃はランニングでさえ、かかと着地で走る人が多かったという。
常に先進的なヨーロッパや南北アメリカなどでは、今は職場にもサンダルが普及しているそうだが、日本はいつもどおり保守的で、この件に関しても何十年か遅れそうだ。スポーツ選手でもない一般人が普通の生活をする時には、相変わらず足全体を抑えつける普通の靴が多い。
今、美香や美香の両親が履いているような、つま先の幅の広い、底の薄い靴がウォーキングシューズと呼ばれるようになったのは、つい最近のことだ。
3人は合羽橋とアメ横を観光した。
「美香、お前はいいのか。」と父が言った。
「まだ寄りたいところがあったら、言いなさい。さっき、包丁が欲しいって言ってたけど、買わなくていいのか。」
「いい。高いから。あんな高い包丁、もったいなくて毎日なんか使えないよ。」
「でも、移住先でもああいうのが手に入るかわからないでしょ。買っておいたほうがいいんじゃない。」と母が言った。
「あのね、宇宙では宇宙にしかないようなレベルの高い料理道具があるんじゃないかと思うの。包丁なんか、原始的すぎて使えないかもしれない。」
何の気なしに言ったことだったが、これを聞いて父も母も声を出して笑った。
包丁を買わなかった代わりに、アメ横では香辛料を何種類か買った。
その後、少し足を延ばして東京駅を見に行き、駅をバックに動画を撮った。
ここで父の蘊蓄を初めてうるさいと思わずに聞けた。
それどころか古風で美しい駅舎の絵に解説を付けたかったので、わざと父にしゃべらせた。
それから夕食を予約している虎ノ門のレストランまで、旧皇居の堀沿いの情景を眺めながら歩いて行った。
霞が関を通った時、あるビルの前に長蛇の列が出来ていた。そのすぐ前を通ったので、両親は好奇心からビルの窓から中を覗こうとした。
通りすがりに、美香は行列のほとんどが外国人なのに気づいた。長い列に並ぶ人たちのほぼ全員が浅黒い扁平な顔をしていた。仲見世を見物している時に道を尋ねてきた極東の女性と似ていた。
このとき美香は、あの女性が「移民局」と言っていたのを思い出した。同時に、地元のオフィスで手続きをした時の情景が脳裏に蘇った。
『そうか、ここは宇宙連合の東京オフィスなんだ。県庁に詰めかけていた外国人たちのように、母国で簡単に移民できない人たちが手続きに来ているんだ。』
「なんだろうな、これ。」と父がいぶかしんでいるので、美香は説明してやった。
「ああ、そういえば、そんなニュースがあったな。
ということは、ここで手続きしている人たちも宇宙コロニーへ移住するのか。
じゃあ、この人たち、我が家のお隣さんになるかもしれないんだな。」
のんきにそういう父の顔を、美香は一瞬呆れて見つめた。そしてすぐに
「そんなに宇宙は狭いですかねえ。」とからかってやった。
「移住先のコロニーって、どういう振り分けになるんだろうね。」と母が言った。
「最初はだいたい出身国別だって言ってたでしょ。
その、だいたいっていうのが気になるのよね。日本人だけじゃなくて、近くの国と一緒なのかしら。」
「ううん、原則は地球の出身国別に分かれて移住するんだよ。希望すれば外国のコロニーに行けるし、逆に日本で働いてたとか、日本人と結婚してる外国人が日本コロニーに入るっていうのはあるけど、違う国の移民を強制的に混ぜることはないみたいよ。」
「そうなの。安心した。」
「そうだろうな。言葉だって違うんだし。」
しゃべっているうちに目的のレストランが見えてきた。美香が指さして、あそこだと言うと、一行の興味はすぐにレストランに移った。
翌日も早朝から観光だった。3人とも普段から早起きなので、7時前には出かける準備を整え、ホテルの食堂が開くとすぐに朝食を摂り、さっさとチェックアウトした。
地下鉄で移動し、涼しいうちに神田の本屋街で骨董を見て回った。
本屋街という名前だけは残っているが、今は本屋よりも古物商が多くなっている。
古本屋もあり、希少な絶版本が目を疑う値段をつけられていたり、骨董商に古文書が並んでいたりもする。
古物商は大通りだけでなく、網の目のように走る裏通りにも点在していた。それらの店を順に見ながら一車線の通りをくねくねと歩き回ると、急に学生向けのカフェテリアやバーガーショップが並ぶ場所に出て、ここは学生街だということを思い出す。
夏休み中で学生の姿はないにもかかわらず、ポップでカラフルな外観の飲食店は、閑散とした通りに向けて営業中の札をかけていた。
とある古物商のショウウィンドウで、美香は一輪の小さなバラを見つけた。
立ち止まってよく見ると、バラは陶器でできた飾りで、小さな宝石入れの蓋の上に乗っているのだった。
蓋の隣に胴体が置かれていて、こちらは絵付けでバラが描かれていた。
指輪が二つ三つ入る程度の小さな宝石入れだ。小さい割に値段が少し高かったけれど、これを見たら玲佳はきっと喜ぶだろう。
先へ行こうとしていた両親を呼び止め、その宝石入れを購入する間待ってもらった。
店から出てくると、母が何を買ったか見たがったので、緩衝材をそっと開けて見せた。
「玲佳のお土産。」と言い訳をするかのように美香はつぶやいた。
「あら、可愛いじゃない。」と母がほほ笑んだ。
「高かったけど、たまにはいいか、と思って。」
父ものぞきこんできた。
「ああ、いいね。手作りかな。」
神保町から坂を上がり、線路沿いに秋葉原へ歩いて行った。
秋葉原は、表側と裏側があり、表側には家電やIT機器の店が集まっていて、昔から電気街という名で親しまれているが、裏側は漫画・アニメ・ポルノの看板が集中する怪しげな地域だ。
かつては表裏という区別はなく、外国からも観光客が来ていたが、文化としてのエンターテインメントと、性を商品化するポルノ的なものとの線引きを怠ったために衰退していった。
特に、イスラム圏において不健全な要素を文化から追放する運動が興った時、日本製アニメが主な攻撃の的になったことが響いていた。
日本アニメの巨大市場だった東南アジアにはイスラム教徒が多いのに、日本の製作者たちは対応も配慮も遅く、真剣に性表現について検討しようという態度を示せなかったため、アメリカのアニメーションにどんどん市場を奪われてゆき、アジアだけでなく中東やアフリカからも日本アニメが姿を消していった。
テコ入れのために建造された大きなアニメシネマがまだあったが、長い間改装していないらしく、薄汚れた外壁をさらしていた。
一家は裏側へ入らないように気をつけながら、電気街を見物した。
秋葉原から神田川沿いに隅田川の方へ歩くことにした。
父が昔働いていたオフィスがそのあたりにあったので、皆で見に行こうとしたのだった。
しかし、そのオフィスはもう無くなっていた。
オフィスどころか、川岸全体が全く別の景観になっている、と父は歩きながら何度も驚いていた。
「いや、何だこれ。跡形もない。」
「オフィスはどこにあったの。」
「このあたりかな。そうだ、あのビルがこういう角度で見えたから、ここのはずなんだ。」
「ここって、この芝生の上?こんな川っぷちだったの?」
「そうだよ。前は川のぎりぎりまで建物があったんだ。この川沿い、ずうっと建物が並んでたんだ。向こう岸もずうっと。」
父が言葉を切り、一同は黙って神田川を眺めた。
川沿いに見渡せる限り、芝が植えられた幅の狭い斜面が続いていた。芝のところどころに灌木や木も生い茂っていて、涼しげだ。
その緑地帯は両岸にあり、その外側に奇麗な敷石の遊歩道があり、犬の散歩をしている人たちや、美香たちと同じ観光客がまばらに歩いていた。
全体の景観はとても感じがよかった。造成されたばかりの歩道にありがちな、敷石やコンクリートが汚れ一つない真っ白で、植えられた緑が馴染んでいないという感じではなく、ある程度時間が経過して落ち着いた感じだ。
遊歩道に接して建物や店舗が並んでいた。ほとんどの建物は入口が川側にあり、背面を見せているビルは少なく、あったとしても庭木や奇麗に塗装された柵で体裁を整えてあった。
よく見ると建物の景観は統一されておらず、ガラス張りに白い壁の婦人服店の隣に昭和風の和菓子屋が縁台を出していたり、最近多く見かける木材とガラスを多用し細めの鉄骨で強度をつけた建物もあり、全体の形が非常に変わった凹凸形のビルもある。
こじんまりした通りだったが、雰囲気は普通の地方の川沿いの道とは全く違っていた。観光地の裏通りの感じとも違う。
建築家が己の創造性をいかんなく発揮したといった感のある建物が多いが、それを小さな空間にギュッと押し込んで生活感を混ぜ込んだような、独特の感じがあった。
これが下町情緒なのかな、と美香は考えた。下町という場所が正確にはどこなのかも知らなかったが。
一行はこの通りの一角で昼食を摂ることにした。
メニューの看板を出している店に恐る恐る入って行く。
店内には白髪の男性が一人いるだけで、他に店員がいなかった。テーブルが三つしかない小さな店で、入ってすぐに立ち止まって案内を待つと、白髪の店員は「お好きな所へどうぞ。」と笑いながら言った。
窓際に席を取り、狭いので荷物を足下に押し込んでいると、その店員は低い台のようなものを出してきて、席のすぐ横に置き、荷物置き場にしてくれた。
「ご旅行ですか。」と彼が愛想よく話しかけてきた。父が答え、雑談を始めた。すぐに注文するのではそっけないと思っての社交辞令だったが、予想外に話が弾んだ。
男性はこの店の店主だった。
父は、昔この辺りにあったビルで働いていたのだが、その会社はどこへ行ったか知らないかと訊いてみた。
店主は首を横に振った。この川沿いの道は十数年前に都が整備し、それ以前にあった建物はすべて取り壊された。オフィスや店舗はよそへ引っ越して行った。
店主は整備後に新たにここへ入ってきたので、それ以前に住んでいた人たちとは会ったこともなく、父の元勤務先も、どうなったかどころか、名称すら知らなかった。
しかし、今はこの通り沿いにないことだけは確かだった。
昼食が済むと、店の外まで出て見送ってくれる店主を何度も振り返り、手を振って別れを告げた。
それから、浅草橋の方へ歩いていった。隅田川と東京湾を巡る水上バスに乗るためだ。チケットは予約しておいたので、出発時間の少し前までに乗り場へ行けばいい。支払いもスマホで数秒で済む。
日本神話の神様の名を冠した船に乗り込み、隅田川下りを楽しんだ。平たい形の水上バスは真上も窓になっていて、橋をくぐるたびに上を向いて橋の裏側を眺めた。
水上バスを降りると、お台場周辺を見て回った。
美香は何だか物足りなかった。国際見本市や東京ビッグサイトを見、科学未来館にも入ったし、至る所にある気の利いたショップも見て回った。
が、その間ずっと表現しようのない感覚がつきまとった。
あまりに奇麗に整備されすぎていて、普通の生活とは別の空間だからかもしれない。つまり、自分の毎日の現実と関わりのない場所、という感じがするからかもしれない。
神田の骨董店の多い通りや川沿いのこじんまりした通りでは、こんな感覚はなかった。
予定では、お台場をゆっくり観光した後で夕食を済ませ、19時には車を止めてある駐車場へ行く事になっていた。
ところが、父が突然浜離宮を見たいと言い出し、急きょゆりかもめに乗り込む羽目になった。
浜離宮入口に着いた時、美香は入場時間が17時半と書いてあるのを見つけた。
冬はもっと早く、16時半で入場を締め切るとあるのを読み、美香は自分の帰宅時間と比べて羨ましい、と言った。
すると両親はすぐに、十分な給与をもらえて身分も保証されているのだから、2~3時間居残るくらいは我慢するべきだと説教をした。
美香は反論せずに黙っていたが、心の中では不満が膨張していた。
残業2~3時間というと軽く聞こえるが、それは早く帰れる日の話で、一年の3分の一ほどはもっと集中的に残業するし、だいいち定時で終わる日が全くない。
休日がなくなることも多い。
それが二十年ずっと続いているのだ。
この件に関しては両親が古いと美香は思っていた。
今は残業が悪者になっている。
一日の労働時間が長くなるほど単位時間あたりの効率が悪くなることが科学的に確認されて久しく、残業する社員は能力が足りないと見なされる。
日本が二流国家と言われるようになったのも、残業の労働効率の悪さのせいだというのが今の定説で、一般企業は大手ほど残業を減らしていた。
とはいえ、それは恵まれた大企業や官公庁に限った話である事は美香も分かっていた。
日本の企業の8割を占める中小企業では給与が低く、残業代で補わなければ生活できない人達が多いのも事実だ。
公務員であるはずの美香でさえ、給与だけでは5人家族の生活を賄いきれない。
それでも公務員は残業手当もほぼ全部支払われるから、何とか生活して行けるのだ。
本当は労働効率の他にも原因があるのだが、とにかく今の日本は、働き続けても豊かになっていかない大多数と、少数の富裕層に分裂していた。
ごく一握りの大成功者が世界的に活躍して日本の名を世界に知らしめているが、彼ら自身は海外に豪邸を構え、日本へはほとんど帰って来ない。
大富豪というほどではないが豊かな人たちは都市部に住み、メディアで華やかに喧伝される流行や、充実した文化生活を楽しんでいるが、その他大勢の日本人は余暇を持てないほど働いても生活するだけで手一杯だった。
セイフティーネットや公的設備・公的支援は、父の若いころに比べると良くなっているというが、社会全体を見渡してみると、じりじりとシンガポールのような二極化社会に近づいていた。
歩きながら、いつの間にかそんな話を父と交わしていた。
父は、グローバリゼーションが進んだ国ではどこでも近代以前の、富裕層と労働階級に二極化した貴族制身分階級社会に先祖帰りしている、と言った。
「アジア諸国はほぼ全てそうなっていて、日本もその道を進んでいるようだが、アジアの中では一番最後まで粘るだろう。
まだまだ外国の資本家の植民地にはなっていない。日本はかなりしぶとい国だ。」
「うん。」と美香は同意したが、気の抜けた声になってしまった。
残業が良いか悪いかという、目の前の現実の話をしていたつもりだったが、父にはそんな日常の事はどうでもいいのだろう。
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