第30話 いいじゃない空ツリー
東京観光といっても、具体的になんにも考えていなかった
ってかそもそも、クロスズの記憶は鈴音なのだから、東京出身だと言えるわけで……
地元民三人が、なぜ地元を観光して回らなければならないのだろう……?
そんな疑問が脳裏をよぎるが、しかし鈴音の言うとおり、地元民であったとしても、意外と行っていない場所が多いのも事実。何しろ東京には様々な観光スポットがあるしな。
それに観光地なら再訪したって楽しいことに変わりはないが──とはいえ、デートスポットはクロスズとここ最近行きまくっていたからさすがに避けたいし、千葉方面にあるテーマパークは、ゴールデンウィーク中に行ったら並んでいるだけで一日が終わりそうだし……
ということでオレたちがまだ行ったことのない場所で、かつ近場で、さらには夕方になろうかという今時分に行っても楽しめそうな場所──それが超高層電波塔である空ツリーだった!
完成してからもう結構経つのに、なぜこれまでオレたちが行ったことがないのか?
なぜならば!
オレが高所恐怖症だからである。
「いいじゃない空ツリー。まだ行ったことなかったし」
しかし鈴音はけっこう乗り気だ。そんな鈴音にオレがむくれて言ってやる。
「お前な……オレが高所恐怖症なの知ってるだろ」
「うん。だから今まで行かなかったわけだし──ねぇねぇクロスズちゃん、淳一郎って子供の頃、首都タワーに登ったらあまりの怖さにお漏らしを──」
「おまっ!? まだ覚えてたのかよ!?」
オレも忘れているくらいの幼少期の話を鈴音に蒸し返されて、オレは思わず赤面する。もっとも、鈴音と同じ記憶を引き継いでいるクロスズに言ったところで、元より知られているわけだが……
そんなクロスズはクスクスと笑っている。
まぁいずれにしても、わざわざ黒歴史を思い出されるいわれはないわけで……!
だからオレは強がって鈴音に言った。
「いいよ分かった! 行ってやろうじゃないか空ツリー! 今ではぜんぜん平気になったところを見せてやるよ!」
「ほんとにだいじょーぶ? この歳であんなことになったら、目も当てられないけど……」
「大丈夫に決まってるだろ!」
それにオレには勝算がある。
いくらオレが高所恐怖症だといったって、夜になってしまえば、その高さを感じることもない。オレの場合、夜景ならけっこう平気なのだ。
これから、空ツリーの最寄り駅まで行ったら、なんだかんだと一時間くらいはかかるだろう。それに、空ツリーの麓はショッピングモールになっているらしく、ゴールデンウィークだからかなり混雑しているはずだ。
そんな状況であれば、展望デッキに上がる頃には日も暮れているというものだ。
ということでオレが覚悟を決めると、鈴音がちょっと真面目な顔つきで言ってきた。
「えーと……ほんとに平気? 無理してるなら、別に空ツリーじゃなくてもいいんだけど……」
「へ、平気に決まってるだろ……! いい加減、その黒歴史を払拭してやんよ!」
ということでオレは──
──これからちょうど2時間後、激しく後悔することになるのだった。
いろんな意味で……
絶対服従のツンデレ美少女を『作って』、二人だけの隠密生活! でも幼馴染みに怪しまれてる……!? 佐々木直也 @naon365
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