第29話 オレはお預けを食らい続けるのだった……
ゴールデンウィーク中はどこも混雑していて、外泊などの予約も取れなかったので、マンションにいること自体は問題なかったのだが……そもそも、クロスズの部屋でまったり過ごすのも悪くないかと思っていたし。
しかし鈴音も一緒にいることになるとは思ってもいなかったわけで……
それに鈴音には終始探りを入れられているような気がして、オレはハラハラしながら過ごす羽目となり、ちっともまったり出来ないでいた。
「鈴音さん──せっかくの休日だったのに最後まで手伝ってくれて、本当にありがとう」
そうして午後三時くらいに部屋の整理が終わって、クロスズが鈴音に改めてお礼を言った。
「ううん、大丈夫だよ。とくにやることもなかったしね」
鈴音はにっこり笑いながらそう答えた。この二人の関係は良好そうで何よりではある。傍から見ていると、仲のいい双子の姉妹に見えるし。
そんな二人とオレは今、片付け終えたリビングのソファに腰を下ろしてお茶をしていた。段ボールなどのゴミも、回収日を待たずにマンションのゴミ捨て場に捨てられる仕組みだったので、室内はすっかり綺麗になっている。
そんな部屋を眺めながら鈴音が言った。
「それにしても……オシャレな部屋よね。一人暮らしでこの広さだし……もしかして、クロスズさんちってお金持ちなの?」
鈴音のそんな質問に、クロスズはちらりとオレを見てくる。その目配せに気づいたオレは咄嗟にテレパシーを送り、クロスズはその通りに話した。
「ちょっとした会社をやってるんだ。数百人程度の」
オレは即席で、自分のクローンを社員に見立ててそんな作り話を考えた。仕事の内容まで突っ込まれるとさすがにヤバかったが、鈴音はそこまで追求はしてこなかった。
「そうなんだ、いいなぁ……わたしもいつかこんな感じで一人暮らしをしてみたいけど、うちの両親は普通の会社員だから無理だしなぁ」
鈴音が興味を持ったのはクロスズの両親ではなく、憧れの一人暮らしについてだったようで、オレは密かに胸を撫で下ろす。
だがこれ以上、クロスズについて根掘り葉掘り聞かれてもボロが出そうだったので、オレは話題を切り替えることにした。クロスズのプロフィールは後でしっかり作らないとと思いながら。
「それで引っ越し作業も終わったわけだし、このあとどうする?」
オレのその問いかけに、鈴音はいっとき考えてから答えてきた。
「わたしは特に予定ないけど……淳一郎はどうするの?」
どうするも何も、まず鈴音には早急に帰って欲しいわけだが──クロスズへの追求を避けるためにも、オレの
だがもちろん、そんなことは口が裂けても言えないので、本音は隠した上で事実を言うしかなかった。
「いや実は、なんの予定も立ててないんだよな……」
「ふぅん? ゴールデンウィーク中もずっと暇なの?」
「強いていえば、クロスズを東京観光にでも連れて行こうと思っていたけど……」
「あ、ならわたしも行きたい!」
「へ……?」
思いも寄らない鈴音の食いつきに、オレは思わず変な声を出してしまった。
すると鈴音が頬を膨らませる。
「なぁに? その反応。まさかわたしが邪魔だとでも言いたいわけ?」
「い、いやいや……そんなこと言ってないだろ?」
「なら別に、わたしが付いていってもいいじゃない」
「けど、地元を観光したって面白くないんじゃないか……?」
「そんなことないわよ。東京は広いし、意外と観光してない場所もたくさんあるし」
「そ、そうか……」
「なんか、淳一郎は露骨にイヤそうね?」
「そんなことないってば!」
オレは慌てて首を横に振るが、しかし鈴音は、オレの意見なんて聞いていないって感じでクロスズに視線を向ける。
「クロスズさんは、わたしも一緒だとイヤかな?」
するとクロスズは、屈託ない笑顔を鈴音に向ける。
「ぜんぜんそんなことないよ。むしろ嬉しいくらい」
「本当? なら明日は一緒に東京観光しようね!」
と、そんなわけで……
明日も、オレたち三人は一緒に行動することになる。
オレとしては、できるだけ鈴音とクロスズを引き離したいのだが……どういうわけか鈴音がグイグイ来るし……オレもクロスズも拒否る理由もないしで……
ちなみに今日も、結局クロスズの部屋でおしゃべりをしたりゲームをしたりだったので、オレはクロスズと二人っきりになれず、さらに自宅に帰った後も、鈴音はオレの部屋に入り浸るからクロスズの元へは行けずで……
というわけでオレはお預けを食らい続けるのだった……はぁ……
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