第27話 従兄妹同士って……確か結婚も出来るんだよね?

 本当に、従兄妹なのかな……?


 鈴音わたしは、そんなことを思いながらクロスズさんの引っ越し手伝いに着手する。


 引っ越しといっても、クロスズさんの荷物は着替えくらいしかなくて、それ以外はぜんぶ新調するとのことだった。


 ということで、わたしたちが部屋に来てから少しすると、家具や雑貨の搬入がどんどん始まり、1LDKのリビングが荷物で埋まった。


 ベッドなんかの大物家具は、運んできてくれた人が組立や設置まで行ってくれたので助かったけれど、すべて通販で買ったという様々な雑貨の開封はけっこうな時間がかかりそうだった。


 段ボールで埋め尽くされたリビングを見ながら、わたしは呆れながら淳一郎に言った。


「この量を、二人で片付けるつもりでいたの?」


 すると淳一郎は、なぜか目を泳がせながら答えてきた。


「あ、ああ……そうなるな」


「二人は元より、三人だって今日中には終わらないんじゃない? この量じゃ……」


「そうかも知んない」


「もう、無計画なんだから。これなら、人手は少しでも多い方がよかったでしょ」


「そうだな。助かったよ、鈴音」


「別に構わないよ。そうしたら、今日出来るところまで片付けちゃお」


 そうしてわたしたちは荷ほどきを始める。


 送られてきた雑貨を見るに、どれも高そうなものばかりね……インテリアには詳しくないけど、食器なんて見るからに高そうな感じだし。


 そもそも、この部屋も一人暮らしにしてはかなり広い。クロスズさんに聞いてみたら、リビングは16畳もあって、その横に8畳の寝室が付いているという。バストイレは当然別で、パウダールーム兼脱衣所も付いているし、クローゼットもウォークインだった。


 クロスズさんちって……けっこうなお金持ちなのかもね。


 わたしも、いつかは一人暮らしをしてみたいと思ってて、だから賃貸マンションの家賃とかを調べたりしたこともあるけど、東京だと、うちの家計ではどう計算しても六畳一間のワンルームくらいにしか住めそうにないわけで。


 お金って、あるところにはあるんだなぁ……


 さらにもう一つ、気になることがある。


 それは、さも高級そうな食器についてだ。


 だからわたしは、キッチンの戸棚に食器をしまっていた淳一郎に声を掛けた。


「ねぇ……淳一郎」


「ん、どした?」


「この食器、どうして全部ペアなの?」


「へ……?」


 淳一郎はきょとんとした顔つきで、わたしが持っている食器に視線を落として、それから言った。


「ぐ、偶然だろ?」


「そんなわけないでしょ。このグラスもあのお皿も、ぜんぶ二つずつあるじゃない」


「そ、そのほうが便利だからでは?」


「この茶碗なんて色がピンクとグレーだし……これじゃあ、新婚夫婦が使いそうな感じよね?」


「い、いや……オレに聞かれても……買ったのはクロスズの両親だし……」


「お金を出したのはそうでも、選んだのは淳一郎なんじゃない?」


「いやいや、どうして人様んちの雑貨をオレが選ばなくちゃならないんだよ? そもそも例えオレが選んだとしても鈴音には関係ないだろ」


「……ッ!」


 公園でのやりとりと似たようなことを言われて、わたしは思わず言葉を詰まらせる。


 するとリビングのほうを片付けていたクロスズさんが言ってきた。わたしたちの会話が聞こえていたらしい。


「もう、淳一郎。そんな冷たい言い方をしちゃダメでしょ」


「いや、別に冷たくしたつもりはないが……」


「でも女の子からしたら、今の台詞は突き放したように聞こえるんだよ」


 それからクロスズさんは、わたしに向かって言ってきた。


「食器がペアなのは、淳一郎が言ってたとおり、そのほうが便利だからだよ。あと夫婦茶碗とかもあるのは、お母さんが悪ノリしちゃったからなの。いつか、この茶碗を一緒に使えるような男性を見つけなさいって」


「そ、そうなんだ……」


「ちなみにその相手は、淳一郎じゃないから安心してね?」


「だ、だからっ! そういうんじゃないから!」


 うう……


 どうやらクロスズさんには、わたしの気持ちがバレているみたいで……


 っていうか、今日このやりとりで、淳一郎にもバレている気がしなくもないけれど……


 でもまぁ……大丈夫かな?


 クロスズさんにたしなめられた淳一郎は、まだ意味が分かっていないのかポカンとしているだけだったし。


 はぁ……


 淳一郎って……ほんと、鈍いんだよね……


 人の気持ちを察することが出来ないというか……空気が読めないというか……


 幼馴染みを長年やっているわけだから、分かっていたことではあったけれど。


 でもだからこそ、わたしはある意味で安心していたのかもしれない。


 こんな鈍い淳一郎に好意を寄せる女の子なんて、現れるわけがないと思っていたから。


 けど……でも……


 クロスズさんはああ言っているけど……


「………………」


 食器を一通り片付け終えて、今度はリビングのほうで荷ほどきを始めた淳一郎を──そしてそれを手伝うクロスズさんを、わたしは黙って見つめていた。


「クロスズ、このスピーカーはどこに置く?」


「そうだね……スピーカーはこの辺かな?」


「ふむ、だとしたらテレビはこっちに設置して……あー、でもネットの配線はあっちの壁際にあるのか……となると……」


「別に、そこまでこだわらなくてもいいよ? 置ける場所に置ければ」


「うん……でもまぁせっかくの一人暮らしだし、こだわりをもってだな……」


 なんだか……新婚夫婦が新居の準備をしているかのようにも見える。


 従兄妹同士って……確か結婚も出来るんだよね?


 だとしたら今はその気がなくても、わたしより可愛くて素直なクロスズさんなら、むしろ淳一郎のほうが好きになってしまうかも……


 うう……でもだからといって、今さら素直になんてなれないよ……


「ねぇ、鈴音さん」


「え!? あ、なに!?」


 落ち込んでいたら急に声を掛けられて、わたしはビックリしながらクロスズさんを見た。


 クロスズさんは、少し不思議そうな顔つきになりながらも聞いてくる。


「テレビとスピーカーの配置なんだけど、どう思う?」


「え、あ……そ、そうだね……」


 そうしてわたしは、やきもきし続けながらも、部屋の整理を夕食時分まで手伝うのだった。

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