第19話 何しろお金もたんまりあるし……!

「今回の小テストで学年一位になったのは──古瀬だ」


 担任教師に名前を呼ばれた淳一郎オレは、クラスメイトから「おお……」というどよめきと拍手を受けた。オレは苦笑を浮かべながら、なんとなくお辞儀をする。


「この調子でがんばれよ。さらに学年二位もうちのクラスで、白石だ。よくやったな」


 鈴音は頭がいいからな。高校受験のころは、ちょくちょく勉強を見てもらったものだ。中学校では少し疎遠になっていたんだけど、それでまた距離感が縮まったんだよな。


 鈴音は、もっと上位の高校に進学できたと思うんだけど、家から近いという理由でこの高校を選んだ。もったいない気もするが、まぁこの高校も進学校だし、本人ががんばれば大学進学に支障はないだろう。


 そもそも、オレがクローンに勉強させていなければ、鈴音が学年一位だったのだし。


 そんなことを振り返っていたら、担任が話を続けた。


「明日からゴールデンウィークに入るが、小テストで赤点だった者は補習があるからな。覚悟しておくように」


 そこかしこでため息が出ているところを見ると、このクラスにも補習を受ける生徒が数名いるらしい。


 まぁオレにとっては、もはや無縁の話ではあるのだが。


 いやほんと、クローン生成などという超能力に目覚めてよかったなぁ。本来なら、オレも補習を受けなければならなかっただろうからなぁ。


 そんなわけでオレは、フリーとなったゴールデンウィークに、クロスズと何して遊ぼうかなと考え始めた。何しろお金もたんまりあるし……!


 けど今から外泊とかは無理かなぁ? 予約もしてないし、そもそもまだ未成年だし。あ、未成年については偽母を同行させればいいか。


 そうしたら、今日の引っ越しが一段落したら、ゴールデンウィークに出掛けられる場所(出来れば外泊)を、クロスズと一緒にネットで探そう。


 ふっふっふ……なんだかまるで恋人同士みたいじゃないか……!


 しかも今日から、いよいよ、いっよいよ!


 クロスズと二人っきりになれる空間が手に入るわけだし!


 いやこれまでにも、屋外や自宅では二人きりにはなれたのだが、屋外はもちろん人目があるし、自宅は両親がいるしで、完全に二人っきりになれる密室、、がなかったのだ。


 高校生のオレが、クロスズが宿泊するホテルに出入りするのも人目がはばかられるし。


 しかし今日──いよいよクロスズの住居が手に入る。


 誰の目も気にしなくてもいい、二人っっっきりだけの空間が!


 それの意味するところは──そう、アレだ。


 いよいよオレも、アレをするときが──


「ねぇ、淳一郎。ちょっといい?」


 ──などと妄想を膨らませていたら、オレの席の前に、クロスズ……じゃない、鈴音が立っていた。


 だからオレは首を傾げて鈴音を見上げる。


「えっと……ちょっと、とは?」


「いいから。ちょっとこっちに来てよ」


 苛立ちを込めた声音で鈴音が言ってくるものだから、オレはやむを得ず鈴音の後に続く。


 前に一度、鈴音には不審に思われたかもしれないからなぁ……気をつけないと。


 オレのクローンは、自我100%でない場合、判断に迷う場面に遭遇したら強制的にオリジナルの意識に切り替わる仕様になっている。


 切り替わる最たる例としては、クローンがクローンであると疑われたときだ。


 あのときは──オレの体調を心配しているふうだった鈴音だが、最後のほうは「わたしに隠していること、ないよね?」と問うてきて、それがクローンについてだったかもしれないので、オリジナルの意識に切り替わった。


 だが疑われたのはあの一度きりだったし、その後の鈴音は疑ってくるような素振りは見せなかったのだが……あれ以来、オレは、鈴音と相対するような場面では、極力オリジナルが出向くようにしていた。


 そうして今日、不審な目つきでオレは呼び出された。


 やはり……鈴音は何かを感づいているのか……!?


 いやしかし、クローン生成などというトンデモ能力をオレが得たなんて、夢にも思わないと思うが……


 オレは、全力疾走したかのような血流を全身で感じながら、鈴音の後に続くのだった。

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