第17話 オレはクロスズと遊び呆けていた

 バイト関係は至極順調に進んだ。


 向こうだって求人しているわけだし、専門技能を必要としている仕事でもないのだから、ごく普通の人間であれば誰でも採用されるのだろう。


 ということでオレは──いや偽オレたちは、面接に行ったその週末から仕事に入ることが出来て、土日で20件の仕事をこなした。土日は丸一日入れたので、イベント設営やら誘導やらの仕事で、一人あたり約5000円の収入になった。


 ということで5000円×20件=10万円。


 たった2日間で、オレは10万円もの大金をせしめてしまった……!


 これで古着を買った資金はほぼ回収できたわけだ。


 これまで、お年玉や小遣いをコツコツ貯金してきたのが馬鹿らしくなってくるな……


 しかもその週末のオレ(オリジナル)は、クロスズとお台場に行って、そこのデカいゲーセン的施設で楽しく遊んでいたというのに!!


 な、なんという役得……


 もはや、オレは勉強しなくても進学しなくても、バイトだけで一生安泰ではなかろうか?


 とはいえ分不相応のお金が貯まっても、その使い道に困ってしまう。パソコン程度なら親も分からないだろうが、これがバイクとか買ったりしたら、どうしてバイトでそんなにすぐ稼げるのか怪しまれるだろう。


 ということは将来的に、高収入に見合うだけの地位も必要になってくるのかもしれない。オレが予測できない事態なんてたくさんあるだろうし、クローンを使い続けることは元より危険だし。


 だがその地位を手に入れるための努力すら、オレはクローン達に任せておけば自動的に手に入るのだが。


 なぜって……クローンに勉強をさせておけば、本体のオレは苦もなく覚えられるのだから。


 ということで、オレは50人のクローンに勉強するよう命じる。古着も余っていたし。


 高校生が、平日に出歩いていたら目立ってしまうので、放課後の時間を見計らって、地元以外の図書館なんかで勉強させたのだ。人数分の参考書購入が相当な出費になるも、バイト掛け持ちしまくりで元はすぐ取れた。


 しかも学習方法を考えるのも手間だったので、参考書を一字一句丸暗記させることにした。オレが家庭教師だったら、即解雇であろう指導方針である。


 そんな無茶ぶりにもかかわらず、偽ジュンたちは、ただひたすらに黙々と暗記しまくった。


 参考書を書き写しては覚え、覚えては反復し……そんな単純作業を黙々と繰り返していく。


 それを50人の偽ジュン達が同時に行い、オレへとフィードバックしてくれるのだ。


 凡庸な脳の持ち主たるオレとはいえ、こうなってはもう覚えられないほうがおかしい。


 二週間もしたら、少なくとも歴史や英語などの暗記系教科書は丸暗記できた。もっともすぐに忘れてしまうから、偽ジュンたちには、これまたひたすらに復習させているが。


 そして当然、その間も、オレはクロスズと遊び呆けていた。


 ちなみにクロスズと街を歩くときには、伊達メガネを掛けさせて、髪の毛もアップにしてもらっている。万が一にでも鈴音と鉢合わせしたとき、少しでも誤魔化せるように。まぁ瓜二つどころか同一人物のようなものだから、無駄なあがきだとは思うが。


 髪の毛については、クロスズは「別に切ってもいいよ?」とのことだったが、それはさすがにもったいないと思ったので、アップにまとめてもらった。


 とはいえ高校生の男女が、平日昼間に街を闊歩していたら補導されてしまうだろうから、日中は、ネット経由でゲームしたり、テレパシーでおしゃべりしていた。


 そして放課後になったら、ホテルにカンズメとなっているクロスズのガス抜きで毎日遊びに出掛ける。そして遊んだ後は、クロスズはホテルへ、オレは自宅へと帰宅し、帰宅後もネットとテレパシー経由でつながり続ける──そんな生活を送った。


 オレ自身も高校へ登校はしていて、授業なんかは偽ジュンに任せ、空き教室を見つけてはクロスズの相手をする感じだ。


 同じ建物にオレが二人もいるのはけっこうなリスクではあるのだが……自宅にいても、母さんと不意に鉢合わせするかもしれないので、だったら広い校舎のほうがいいだろうという判断だ。


 ちなみに偽ジュンには制服を着せて、オレは学校指定のジャージを着ている。早めに学生服の予備も用意しないとな。


 こうして考えてみると高校生って……というより未成年って行動範囲が極端に限られてるよなぁ。中学生だったころは、学校と自宅の往復だったから意識したこともなかったけど、中学生も高校生も扱いがあまり変わらない感じだ。高校生になったら、大人としてもっと色々出来ると思っていたんだが。


 まぁどのみち未成年だから仕方がないということか。早く成人して大学生になりたいもんである。


 そんな感じで、オレにとっては新鮮だった生活はあっという間に過ぎて、1ヶ月が経った。


 バイト代も、実質の稼働が二週間程度で200万円入ってきたので、賃貸マンションの契約も偽母が滞りなく済ませてくれた。


 入居日は明日だから、明日はオレとクロスズとで引っ越し作業をする予定だ。引っ越しと言ってもクロスズには荷物がないから、通販で買った家財道具を受け取って組み立てるのが主な作業だが。それもクローン数体にやってもらえばあっという間だろう。


 こうしてクロスズの衣食住がほぼ整う。


 そして高校では、月一回の小テスト返却が行われた。

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