第16話 最後は身を滅ぼしちゃうっていうのがセオリーじゃない?

 ホテルで宿泊の手続きを終えてから、オレたちは古着屋を回って、激安の服をたくさん買い漁った。


 クローンに着せる服がこれから大量に必要となるし、何よりクロスズの服も必要だ。今は母親の服を着せているが、着た覚えのない服が度々洗濯に出されていたらさすがに不審がられるだろうし。


 そうして一着数百円の古着を大量に購入し、上下合わせて一人1000円以内に収めることが出来た。クロスズの服は、もっと上等なものを買ったが。


 これで100人分の衣服が手に入った。ぜんぶは持ちきれないので、自宅と街をなんどか往復することになってしまったが。


 こうして大量の中古着を自宅に持ち帰ると、オレは次の作戦をクロスズに説明する。


「もうだいたい分かっていると思うけど、オレのクローンにバイトさせようと思ってさ」


「なるほど……それで古着をたくさん買ったのね」


「そういうこと。高校生だと、1日3000円くらいにしかならないけど、これを100人が週5で働いたら、1ヶ月でどうなると思う?」


「3000円×100人×22日で………………」


 暗算したクロスズが、答えは言わずに絶句する。


 だからオレはニヤリと笑った。


「そう──1ヶ月で660万円の収入だ」


 まぁ実際には、シフトの都合なんかでそこまでフルに働けるわけないと思うが、だとしても、クロスズ一人を養うなら十二分な収入だろう。


 っていうか、父さんの収入を遙かに超えることは間違いない。ただのバイトで。


 しかもオレ自身のクローンに衣食住は必要ない。バイトの時だけ生成して、バイトが終わったら消失すればいいわけだし。衣服の受け渡しだけ気をつける必要があるが、そこは公園のトイレとかでなんとでもなるだろう。


 あと当面は、日払いをしてくれるバイトじゃないとまずいな。最低でも当月払いとか。そうじゃないと来月のホテル代や飲食代まで保たないし。


 オレは、高校に入ったらバイトしようと思っていたから、その辺はよく調べてあったのだ。その知識が功を奏したという感じだな。


 オレは説明を続ける。


「バイトの面接なんかが順調に行けば、来週くらいから日払いのバイトに就けると思うし、そうしたら毎日何十万円も入ってくる。で、お金が貯まった時点で、マンションを借りよう。偽母に契約してもらえれば大丈夫だろうし。そうすれば生活がグッとしやすくなるさ」


 クロスズのホテル暮らしは、最長で平日4泊5日としている。その方が安上がりなのと、それ以上泊まると怪しまれる気がしたからだ。


 女の子が一人で泊まる理由としては「親戚の子が来ているが、うちは部屋が足りなくて寝泊まりできない」という内容を用意していたが、理由までは特に聞かれなかった。


 オレの説明を聞き終えて、クロスズがため息をついてから言った。


「なんだか……金額が大きすぎて実感ないよ……」


「いや実はオレもそうなんだが……計算上はそうなるし。しかもオレは、働かなくてもいいし、だからバイト先でイヤなことがあったとしても、それを経験することもないし」


 例えば、バイト先で先輩にいじめられたとしても、オリジナルであるオレへのダメージはまったくない。感覚共有により、そういう出来事があったことは知るが、あくまでも知るだけなのだ。『友達が、バイト先の先輩にいじめられた』程度の認識だ。


 だからオレ自身はまったく働かずに、大金が転がり込んでくる。つまりは不労所得というわけで。


 まるで、ブラック企業の社長にでもなった気分だが……働かせているのは他人ではなく、あくまでも自分自身だから、ブラックではなく自助努力だと思いたい。


「にしても……我ながら、途方もないチカラに目覚めてしまったと思うよ」


「そうだね……そのチカラで作られたわたしが言うのもなんだけど……あんまり羽目を外さないでよ? この手のチカラって、最後は身を滅ぼしちゃうっていうのがセオリーじゃない? マンガや映画なんかの」


「そ、そうだよな。肝に銘じておくよ」


 ドキリとすることを言われて、オレは生唾を呑み込む。


 身を滅ぼしかねないと言われればまさにその通りで、クローンを作ってたなんてバレた日には、下手すりゃ逮捕されるかもだからなぁ。社会的制裁だって受けかねないし。


 もっとも、オレが作るクローンは、いざとなれば砂のように消え去ってしまうから証拠もなくなる。『いつも事件に巻き込まれる頭脳は大人な子供(いや頭脳も未成年だから子供では?)』が主人公のマンガを読む限り、逮捕はないと思うが……


 とはいえ、未知なチカラであるからこそ、想定外の出来事が起きかねないからな。足をすくわれないようにしなくては……


 オレは気を引き締めながらも「あ、でも、クロスズの生活費が確保できたら、欲しかったあのPCとあのゲームを買って、ついでにYouTuberのようにガチャ100連とかしてみよう!」などと思うのだった。

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