第14話 マザコンのヘンタイのような気がしなくもないが……やむを得ん……

 とまぁオレのクローン生成は、大別すると三つの能力があったわけだ。


 これを応用して、クロスズの衣食住をいったいどうやって満たすのか?


 オレはまず、自分のクローンを作り出すと、そいつを高校へ行かせることにした。


「……すごい、淳一郎と瓜二つだね」


 自分の髪の毛からクローン淳一郎を作ると、クロスズが目を丸くする。


「瓜二つも何も、細胞的には同一人物だからな」


「あ、そっか……わたしもこうやって作り出されたのに、なんだかとっても不思議な気分……」


「クロスズの場合、自我も鈴音100%だから」


 クローン淳一郎は自我50%とした。とくにオレの前では自我が消失して、人形のように振る舞うよう設定している。


 感情移入しすぎて消せなくなってしまうと困るからなぁ。今後、作り出したクローンのすべてを養うことはさすがに出来ないし。オレがオレ自身に感情移入するのかはともかく。


 それと呼称も偽ジュンとして、名前っぽくしないようにした。これも感情移入をしないための対策だ。


「よし、そしたら偽ジュン。オレの代わりに学校へ行ってくれ」


「分かりました」


 偽ジュンは、抑揚のない声で返事をすると部屋を出て行く。感覚共有で偽ジュンの行動をウォッチするが、母さんにも不審に思われることはなかったし大丈夫だろう。


 そうして、慌ただしい朝の支度後に、偽ジュンは登校していく。オレにとっては、ほとんど初登校に等しい状況ではあるが、鈴音が同じクラスだしなんとかやってくれるだろう。


 出来れば友達も作っていて欲しいところだが……元のコミュニケーション能力はオレ自身であるからして、あまり高望みをしないほうがよさそうではある。


 その後のオレとクロスズは、自室で息を潜めて、家族全員が外出するのを待った。父さんはもちろん仕事で家を出るし、母さんは今日も午前中からパートのはずだ。


 そうして朝九時過ぎになると、家には誰もいなくなった。


「ふぅ……やり過ごせたか」


 オレは、ため息をつきながら自室から顔を出した。シン……と静まり返った空気が感じられる。


 オレの後ろからクロスズが声を掛けてきた。


「それで、これからどうするの?」


「まずはクロスズの寝床を確保しよう」


「どうやって?」


「まぁ見てなって」


 オレは一階に降りて、風呂場の脱衣所に入った。


 クロスズは、大人しくオレの後をついてくる。


 そしてオレは、洗面台に置かれていたヘアブラシに目を留める。


 果たしてそこには、数本の髪の毛が絡まっていた。


(……母親の髪の毛をあさるとか……マザコンのヘンタイのような気がしなくもないが……やむを得ん……)


 別にオレはマザコンじゃねーし……ってかマザコンでも母親の髪の毛に興味を持つ野郎なんて、ヘンタイどころの騒ぎじゃないし……


 などと意味不明なことを考えながらも、オレは髪の毛をつまみ、目を閉じて、少しするとクローンが出来上がる。


「お、おばさんだ……」


 生み出されたクローン母に、さっきもオレのクローンを見たはずのクロスズは、それでもまだ驚いていた。


 オレは、やはり目を閉じたまま命令する。


「とりあえず服を着てくれ。よそ行きのやつを」


「分かりました」


 そうして偽母は脱衣所から出て行った。


 クローンを作ること自体はいくらでも可能なのだが、服は複製出来ないからな……そうなると、クローン生成時にはみんなマッパということになる。


 さすがに母親のそれは見たくもないので、だからオレは目をつぶっていたというわけだ。


 ちなみに偽ジュンを作ったときは、クロスズに背を向けてもらっていた。


「それで淳一郎……おばさんを作ってどうするつもり?」


「いったろ? まずはクロスズの寝床を確保するって。そのために保護者が必要なんだよ」


 そしてオレはニヤリと笑った。

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