第12話 わたしは別に、一緒に寝てもいいよ……?

 よく考えたら、一つのベッドにクロスズと寝ることになる。


 だからオレは生唾を呑み込んでから、クロスズに背を向けてテレパシーを送った。


(一階の客間から布団を持ってくるよ)


(布団なんて持ってきたら怪しまれるんじゃない?)


(まぁ確かに……じゃあ、枕だけでも持ってくる)


 そう言ってオレは部屋から出て、一階客間へと向かう。やはりリビングは消灯されていたので両親は寝たのだろう。


 客間の押し入れから枕だけ取り出すと、オレは自室へと戻った。


 それから消灯して、絨毯が敷かれている床に寝ようとしたら、ベッドの上に起き上がったクロスズが言ってきた。


(床に寝るの?)


(ああ、それしかないし)


(ならわたしが床に寝るよ)


(女子にそんなことさせられないって)


(でも……まだ夜は冷えるし、風邪引いちゃうよ?)


(エアコンを付けっぱなしにしておけば平気だよ)


(………………)


 オレはそう答えてから横になった。


 クロスズから応答がなくなったので、てっきり納得してくれたのかと思ったのだが……


 しばらくするとクロスズが言ってきた。


(わたしは別に、一緒に寝てもいいよ……?)


「……は?」


 オレは思わず声に出してしまう。


(声が出てる)


(あ、悪い……)


 オレは起き上がって、クロスズが寝るベッドのほうを見た。クロスズは起き上がったままだ。


(っていうかお前……なに言ってんの?)


(何って……一緒に寝ようよ?)


(だ、ダメにきまってんだろ……!?)


(なんで?)


(なんでも何も……)


 クロスズと同じベッドで寝た日には、間違いなく理性が吹っ飛ぶ。


 そうなったらもう……自分の衝動を抑える自信はない。さっき、同じベッドで寝るか否かを考えただけだって、実はかなり先走りそうになっていたというのに……!


 何しろ隣の部屋で両親が寝ているのだ。


 しかもうちの壁は薄いから、父さんのイビキもうっすら聞こえてきてしまうのに、そんな部屋で幼馴染みと夜の運動、、、、なんてした日には、どうやったってバレるに決まっている!


(と、とにかく……今日はもう寝てくれ……!)


(………………)


 部屋の照明はすでに落としているので、クロスズがどんな顔をしているのかいまいち分からなかったが、オレはそう言い切ると絨毯の上にゴロ寝する。


 クロスズが同じ部屋にいるだけでも、心臓がはち切れんばかりだというのに……


 まったく……勘弁してくれ。


 というかクロスズを生み出したのはオレ自身だから……これも一種の自業自得なんだろうか?


 などとオレが悶々としていたら、クロスズが動く気配を背後で感じた。


 もしかしてトイレか? とオレが思った次の瞬間、オレの背中に、クロスズの手が添えられる……!?


(な……!?)


 驚いてオレが絶句していると、背後のクロスズが言ってきた。


(なら、一緒に床で寝る)


(な、なんでだよ!?)


(………………)


 驚くオレに、しかしクロスズは答えないまま、横たわっているオレの、その背中に体を……密着してきてませんかね!?


(ク、クロスズ……サン!?)


(………………)


(お、大人しく寝ろって!? まぢで!?)


(………………)


(オレの言うことが聞けないのか!?)


(………………聞いてるよ? 大人しく寝てるもん……)


(そういう意味じゃねぇ!?)


 背中に当たるクロスズの柔らかさと暖かさと、さらには、仄かに漂ってくるクロスズの甘い匂いと……そのすべてが、オレの理性をガンガン削っていくんだが!?


 や、やばい……まぢでヤバイ!


 振り返るどころか、指の一本でも動かそうものなら、オレは間違いなくクロスズを襲ってしまう!


 薄壁一枚隔てた隣室に親が寝ているというのに!!


 だからオレは微動だにせず、目をギュッとつぶり、歯をグッと噛みしめて、祈るかのように命令した。


(い、いいからベッドで眠りなさい! 早く──!)


 クローンは、創造主の命令に絶対服従──その特性を、オレはすんでのところで思い出してクロスズに告げる。


(………………分かった)


 正確に命令をしたことにより、クロスズはベッドに戻る。


 確かにさきほどまでのオレは、クロスズに「寝ろ」とは言ったが「ベッドで寝ろ」とは言っていなかった。


 そんな言葉尻を捉えて、このような行動に出てくるとは思いもよらなかったが……今後は気をつけないと。


 ってかクロスズはなんだって、こんな誘惑するような真似を……?


 オレの体を気遣ってくれているのかもしれないが、逆に、体は興奮しきってむしろ疲れてしまったんだが……!?


 そんなわけでオレは、興奮後の脱力感と、あとは残念な心境とで、オレはぐったりして目をつぶる。


 こ、これは……なんとかしないと……身体と理性がもたん……


 そもそも、クロスズをずっと自宅でかくまうわけにはいかないのだ。となると衣食住の確保は急務になる。


 とはいえオレは一介の高校生に過ぎないから……例えば、クロスズにアパートを貸し与えるなんてお金はどこにもない。貯金といえば、子供の頃からコツコツ貯めたお年玉の30万円ちょいほどしかないし……


 ……いや、ちょっと待てよ?


 そもそもオレは、すでに一介の高校生と言えないのでは?


 クローンだなんて、とんでもないものを作れる超能力を得たのだし。


 ということは、この超能力を上手く活用すれば、衣食住の確保なんてたやすいのではなかろうか?


 オレは、超能力を絡めてこれからの展開を考え始める。


 そんなわけで『女の子と同じ部屋で寝ている』などという状況でも、多少は気を紛らわせられたのだった。

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