第8話 名前をもらえたこと、それ自体が嬉しいらしい

 クローン鈴音のことは、これからクロスズと呼ぶことにした。


 本物もクローンも同じ名前だと紛らわしいし、別の名前があったほうがより愛着が出てくると思ったのだ。


 とはいえ……クロ、、ーンのスズ、、ネだからクロスズって、安直なネーミングだと我ながら思うが、それ以外に思いつかなかった。


 しかしクロスズは大変に喜んでくれた。そんなに喜んでくれるなら、もっとちゃんとした名前を考えてやればよかったと軽く後悔するくらいに。どうやら、名前をもらえたこと、それ自体が嬉しいらしい。


「それで淳一郎、このあとどうするの?」


 ひとしきり喜んだ後、クロスズが聞いてきた。鈴音が一階で夕食の準備をしているから、どうすれば鉢合わせにならないか、その策について言っているのだろう。


「今さっき、アイディアを思いついたんだ。オレはいったん廊下に出るから、クロスズはこのまま部屋で待機していてくれないか」


「え……? いいけど……」


 首を傾げるクロスズを置いて、オレは自室から廊下へと出た。


 そしてそこで念じる。


(クロスズ……聞こえるか?)


(えっ!? な、何コレ!? 淳一郎の声が頭の中に響いてくるよ……!)


(よし、成功のようだな)


 オレの超能力は、実はクローンを生成できるだけではない。


 クローン生成から派生した能力として、感覚共有というものもあった。


 感覚共有とは、クローンが見聞きしたものや感じたことを、生みの親であるオレにフィードバックされる能力のことだ。つまり本体とクローンは、常に繋がっているということでもある。


 この感覚共有を応用すれば、頭の中だけで考えたオレの思念を、クローンにも伝えられるのではないかと思ったのだが、ばっちり成功したわけだ。


 これでスマホいらずで話すことが出来る。しかも通話していると鈴音にバレることもない。


(もし鈴音が、キッチンやリビングから出て行くようなら、オレがこのテレパシーで伝えるから、そうしたらクローゼットに隠れてくれ)


(なるほど……分かったよ)


(あとこのテレパシーは、クロスズからオレに送信することも出来るから、何か伝えたいことがあったら、心の中で、強くオレに呼びかけてくれ。そうすれば繋がるはずだ)


(すごいね。ちょっと試してみてもいい?)


(ああ。いちど練習してみよう)


 オレはテレパシーをいったん切った。そして数秒ほど待つと、頭の中に声が聞こえてきた。


(淳一郎、聞こえる?)


(大丈夫だ。ばっちり聞こえる)


(よかった。これならいつでもおしゃべりできるね)


(そうだな。それじゃあオレはリビングに行くから、クロスズは好きにしてていいぞ)


(分かった……けど、そうすると暇だなぁ……)


(マンガを読んで暇つぶしでもしててくれ)


 そんな雑談をしながら、オレは階段を降りてリビングへと向かう。


(それじゃあリビングに入るから、いったん切るぞ?)


(うん……なるべく早めに帰ってきてね?)


(あ、ああ……分かったよ。あと隙を見て夕食も持ってくるな)


 なんだか新婚ホヤホヤなカップルみたいな会話をすると、オレはテレパシーを切ってリビングに入った。

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