第3話 一糸まとわぬ姿の……
今は、平日の午後三時を回った辺り。父は仕事だし、母もパートに出ているのだろう。だとしたらあと二時間くらいは帰ってこないはずだ。
ということでオレは、入院中に使っていた衣類等の荷ほどきもあとにして、カバンから白封筒を取り出した。
その中には、鈴音の髪の毛が一本入れてある。
入院中の三日間、鈴音は毎日見舞いに来てくれたが、その際に「肩に髪の毛がついてるぞ」と言って採取したのだ。
断っておくと……オレは、幼馴染みの髪の毛を収拾するような変態ではない。
この髪の毛は、目覚めた超能力を使うに当たって、どうしても必要なものなのだ。
だから……仕方がないのだ!
これも、能力を見定めるための実験なのだから!!
ということでオレは、込み上げてくる罪悪感を無理やりねじ込めると、鈴音の髪の毛をベッドに置いた。丁重に。
「さて……と」
そうしてオレは、髪の毛を見つめながら……考える。
目覚めた超能力の使い方は、なぜか分かっている。人間、「どうやって歩けばいいのだろう?」とは考えないが、それとまったく同様で、「どうやって超能力を使うのだろう?」などという疑問は微塵も沸かなかった。
とはいえ、だ。
これから、とんでもないことをおっぱじめるというのに、無造作にサッと行ってしまっていいものだろうか?
何か、前置きとか掛け声とか必要ではなかろうか?
ちょっと格好いい呪文とか唱えれば、よりサマになるかもしれない。
「………………」
しかし文才のないオレには、呪文はもとより掛け声一つ思い浮かばなかった!
それに……やっぱりちょっと恥ずかしいか? 厨二病みたいかも……
とはいえ合図は欲しいから、オレはごく簡単な掛け声にした。
「えっと……鈴音さん、出てきてください」
そうしてパンパンパン、と柏手を打つ。
まるで鈴音の髪の毛を拝んでいるかのようで、あとから考えたら変態度合いがパワーアップしている気がしたが、しかし──
──次の瞬間、鈴音の髪の毛から膨大な光が溢れ出したのだから、もはや、幼馴染みの髪の毛を拝む変態野郎という図式は、超常現象に掻き消されてしまった。
「………………!」
だからオレは、生唾を呑んでその光景を見守る。
やがて光は収縮していき、人間の、それも女性のシルエットを
そうして光は収まっていくと……そこには……
一糸まとわぬ姿の……鈴音が立っていた!
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