第2話 夢だというのに、オレは確信していた

 オレの名前は古瀬淳一郎ふるせじゅんいちろう。16歳の高校一年になったばかり──だったのだが。


 高校に入って数日で、交通事故にあって病院送りとなった……


 しかし入院するのは精密検査をする数日で済みそうだ。何しろオレは、擦り傷一つなかったのだから。


「ほんと……よかった……淳一郎が吹っ飛んだときは、どうなるかと思ったんだよ……?」


 入院翌日に鈴音が見舞いに来てくれて、涙目になって言ってくる。


「いや、オレも死んだと思ったんだけどな。この通りピンピンしてるよ」


「検査の結果は?」


「今のところまるで異常なしだって。お医者さんもびっくりしてた」


「そう……本当によかった……」


 鈴音は、心底胸を撫で下ろしている感じで吐息をつく。最近はあまり接点がなかったのだが、改めてみるとやっぱ美少女だな、コイツ。


 瞳はちょっと儚げで、今は涙で潤んでいるから儚さに拍車が掛かっている。髪の毛はストレートで背中の中程まであり、とても輝いていた。体つきは華奢で胸も控えめではあるのだが無いわけではなく、その慎ましやさがむしろ言いという友人も、中学校にはたくさんいた。


 そんな美少女が幼馴染みであること自体、オレはラッキーなのだろうけれども……付き合いが長ければ長いで、家族のように感じてしまうこともあるから、その先へ行くのはそれはそれで難しいのだ。


 まぁ……鈴音がオーケーしてくれるかはまた別問題だが。


「ところで鈴音。お前、なんであの場所に居合わせたの?」


「えっ!? そ、それは……だって隣の家から同じ時間に同じ高校へ登校するんだよ? あの場にいたっておかしくはないでしょ!?」


「まぁそれもそうか。だったらなんでそんなに慌ててんの?」


「慌ててなんかない! 淳一郎が変なこと聞くからでしょ!」


 慌ててないのに慌ててそう言ってくる鈴音に、オレは首を傾げるしかなかった。


 その後も雑談を小一時間ほどして、鈴音は帰宅する。


 話し相手がいなくなると暇になりそうなものだが……しかしオレはそれどころではなかった。


 暴走車にはねられて、体が入れ替わったその晩。


 オレは夢を見ていた。


 そして夢だというのに、オレは確信していた。


 死にかけたのをきっかけに、オレはとんでもない超能力に目覚めたという確信を。


 だからオレは、手のひらを見つめる。


 そこには、鈴音の髪の毛が一本だけあった。

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