『科学』は「魔法」を凌駕する~魔法至上主義な異世界で無能貴族に転生して領地を追放されたので、俺だけが持つ固有スキル【サイエンス】を駆使して冒険者で無双することに決めました!~
第1話「領地追放されて終焉しか見えない(改稿済み)」
第1話「領地追放されて終焉しか見えない(改稿済み)」
目が覚めるとそこは神殿だった。
「へ?」
俺を取り囲む多くの人たち、格好からしておそらく……民衆、神官、そして貴族?
は、あれ、ここは?
「レオン・ゲネシス・シュナイダー様!!」
「は、はい!!」
俺はなぜだか返事をしていた。
口が勝手に動き、頭が一気に回転していくのが分かる。
それが俺の名前、そのことだけは理解できた。
すると、その瞬間。
ズキン!
頭に電撃のようなものが走った。
尖るような痛みに対して体は勝手に動き続ける。
走馬灯のように周りの流れが遅くなり、頭の中に謎の記憶が流れてきた。
ここは異世界だった。
日本でも、もはや地球でもない。
俺が就活生をしていた世界線とは違う概念と秩序で保たれている世界線のとある星。
科学よりも魔法が栄え、それによって発展している異世界だった。
そんな異世界のとある王国。
”プロイシンドイツェ王国”に仕える貴族の”シュナイダー”公爵家——という王国の中でも片手で数えきれるほどの権力を持つ、由緒正しき貴族の三男として生を受けたのが俺だった。
つまり、俺は貴族に転生したのである。
俺の名前は「レオン・ゲネシス・シュナイダー」。
昔から代々王国宮殿の近衛魔法騎士隊を継いでいるかなり強い家系であり、国の中では知らない人がいないほど。
全員が魔法にたけた能力を持ち、その戦力は通常軍の数にも匹敵すると言われている最強貴族でもある。
そんな最強貴族の三男に生まれた俺には兄弟がいた。
二人の兄と一人の姉が存在し、もちろんその全員が魔法適性が抜群によく、長男は騎士隊の第一騎士団長、次男は第二騎士団長、姉は第二騎士団の副団長と優秀な兄弟が存在していた。
そんな中で、俺の立場と言えば……そうだ。
最悪なものだった。
「——レオン! 聞いてるのか!?」
「っは、はい!! お父様!」
走馬灯のように流れてきた今までの記憶から覚め、ハッとしているとそばで俺の手を引くのはお父様だった。
シュバインシュター・ゲネシス・シュナイダー公爵。
現段階でいう近衛騎士団総司令の座につく、王国最強の魔法騎士とも名高い男でもあり、濃い髭と綺麗な金髪が特徴的な大男。
「お前、この聖なる儀式によそ見を、なんてことしているのだ!」
バシン!!!
公爵家に使えるメイドや執事、そして長男と母上が見守る魔法教会に頬をはたかれる音が響く。
まさに現代なら体罰や虐待で訴えられかねない案件だが、この家、いやこの国ではすべてが普通。
法はあるが、それは王家と仕える貴族の意向によって制定され、多くの亜人は奴隷として働かされている。
秩序はありながらも、それでいて強いものが幅を利かせる世界だった。
にしてもお父様のビンタは痛い。
国の王様を背負う男のそれは齢14才にはあまりにもだ。
もしもここが地球なら虐待で訴えてやりたいところだが、異世界じゃ日常茶飯だな。
そんな親父のビンタで、俺はバランスがとり切れず地べたに這いつくばった。
怯えながら起き上がるも声を喘げる。
「うぅ……っお、お父様痛いです!」
「痛いだと!? 貴様、このシュナイダー家の息子か‼‼‼ 弱きものは必要ない、それが我が家の家訓だと知っていての
「す、すみません!!」
お前、親だろうがよ。言い方ってもんがあるだろうに。
そう思ってもこの家に俺の見方をしてくれる人はいない。
無様な謝罪に周りで見守る人たちの痣洗い嘲笑いも聞こえてきた。
この状況から見て分かる通り、俺はこの家の中で異質な存在だった。
泣き虫で意気地がなく、それに加えて魔法の素質も剣の素質もない。
兄貴達は今の俺と同じ年でシュナイダー家の流派でもある”剣心流”を使いこなし、それでいて基本的な魔法をすべて網羅していたが俺にはそれができなかった。
全てにおいて才能のない俺はいじめの標的だ。
ましては歳が下の子にも勝ったことがない程で、メイドや執事からも常に笑われ、兄や姉からは常に笑われてきていた。
水を掛けられ、「やーいざこ!」なんて言われ、父や母からは「一家の恥さらし!」とまで言われる始末。
最近は成長したこともあって、皮肉めいたことまで言われる。
ただ、そんな俺にも生まれた時には愛されていた。
この家系を兄たちと共に継ぐため、第三騎士団の団長を任される役目があったのだ。
しかし、あまりにもな雑魚ぶりにそれは無理だという話になり、愛を注がれず、すべてそれは兄妹たちに降り注がれた。
自分の部屋はなく、欲しいものも買ってもらえず、従業員よりも酷い小屋のような部屋で常に水ぼらしい服を着せられていた。
そして、あまりにも無様な俺の処分は同じ血が流れているというせめてもの情けでこの国の陸軍に入隊させようという話になっていたのだ。
ただ、この魔法至上主義な世界では軍への入隊基準として魔法が使えることと、魔法学院を卒業していることが必須条件。
魔法の才能がなく、扱えない俺でもほんの少しでも適性があるのではないかというお父様の情けで今日、この魔法教会に訪れていたのだ。
見限られていた俺に残られた最後の砦が”魔法適性検査”だった。
「貴様には道がないのだぞ!! せめて、せめての思いでここまで来たのだ!! その無様な姿をこれ以上晒すでない!!!」
「は、はいっ……」
「ふんっ。さっさと祭壇に立たんか!」
「わ、分かりました!!」
バシンと一発、再び叩かれて涙目のまま俺は教会の祭壇へ足を運ばせる。
ふと振り向くと嘲笑うような視線が向けられて、胸が変な意味で高鳴った。
怖い、これで人生が決まる。
急遽思いだした記憶から俺の心情はすでに限界だった。
重く辛いトラウマが蘇り、それが就活の面接と重なって心臓がバクバクとなる。
そんな俺を身ながら神父が言う。
「では、この水晶玉に手を」
儀式。
魔法適性を計る儀式が始まる。
魔法適性とは名前の通り、魔法に対しての適性があるかを判断するものだ。
この世界では魔力という概念が常として存在していて、それを魔法という形で扱うができる。
ただ、その魔力を扱うためには魔法適性がしっかりとあるかが関わってくる。
この場合、魔法適性には二つの種類が存在している。
一つは総合的な魔力量。使える魔力と魔法の威力、強さなどを示す値であり、その値は0から5までの6段階。値に詳細を簡単に言うと、0に関しては魔法が使えず、5に関しては世界に十人程度しかいないほど貴重な存在になる。
加えて、もう一つは魔法属性である。
属性としては様々あり、火、水、土の基本三大属性に加え、光、闇、風、無の応用四属性がある。一般的には適性の数値によって扱える属性の数が変わるが遺伝で決まることが多い。
シュナイダー家の場合は火と光は基本的に適性があるようで、他は人によって異なる。
——と言った感じの重要な要素が魔法適性になる。
ちなみに、スキルと言われる魔法に付随するものもあるがそこまで大したスキルはないので大抵は魔法適性の方が重要なのだ。
それが今、水晶に手をかざすだけで映し出される。
手に汗握る。
俺の目の前には大きな運命が存在していた。
「レオン・ゲネシス・シュナイダー様。早く、お手を」
「す、すみませんっ」
緊張する。
ひとまず、深呼吸。
ひっひっふぅ。
ってそれは出産するときのやつか。
「い、いきます」
こくりと頷き、俺は目を閉じながら手をかざす。
すると、徐々に俺のステータス。
魔法適性が浮かび上がり、辺りがざわつく。
そうか、俺の適性はそこそこあったのか!!
——————なんて期待しているのは俺だけだった。
そのざわめきは徐々に沈黙に変わっていき、兄たちの嘲笑が聞こえてくる。
その瞬間、俺は察した。
目に入るその情報、ステータス。
そこに描かれていたのは0という数字だったのだ。
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〇レオン・ゲネシス・シュナイダー
年齢:14
種族:人間(貴族)
性別:男
魔法適性:0/5
魔法属性:×
オリジナルスキル:【科学】
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まさに、ゴミ。
帰り道はもうお通夜の気分だった。
他の兄妹には馬鹿にされ、お母様からはゴミのような視線で睨まれ、挙句の果てにはお父様にも何も言われなかった。
そして、家に帰ってからも地獄だった。
一つ言えるのはとにかく最悪だったことだ。
この、レオンの体に宿った記憶的にも今まであまりに才能がなかったことからあまり期待もされず、メイドや執事からも口をロクに訊いて貰えたことはなかったがあの日からはより一層ひどかった。
今までは無視だったものが、あの日の夜からはなにか言う度に舌打ちに変り、夜ご飯はうちの地下で働く奴隷と同じ豆スープが部屋に置かれるだけとなり、洗濯もお風呂も「勝手にどうぞ」と部屋の前に置かれた樽一つ。
魔法練習では他の兄妹に的にされ、もはやあれは逃げる兎の気分だった。
もちろん、魔法が体に当たったら火傷と流血は免れないし、何よりも痛い。
体も精神もボロボロでそれはもう、生きた心地がしなかった。
結局、それからも俺の処遇は変わることなどなく、あまりにもひどい状況から鑑みて、これ以上シュナイダー家の名前を汚すわけにはいかず、俺は領地からの追放という形で処分されたのだった。
一つ言おう。
俺は、異世界で現世の続きでもある就活に失敗したのだ。
人生という名の就活に、失敗してしまったのだった。
手渡しされたのは現世で言う10万円に当たる金貨1枚のみ。
そのまま魔物の森へと置いて行かれた俺は決意する。
「よし、これからは冒険者にでもなって楽に生きていこう」
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