『科学』は「魔法」を凌駕する~魔法至上主義な異世界で無能貴族に転生して領地を追放されたので、俺だけが持つ固有スキル【サイエンス】を駆使して冒険者で無双することに決めました!~

藍坂イツキ

第0話「異世界転生したけど破滅フラグしかない(改稿済み)」



 いつの間にか俺の体は動いていた。


「あっぶないっ‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼」


 あ、終わった。

 俺はふと、そう思った。


 ガラスの破片と、空に上がった赤い炎と黒煙。


 くうを舞う身体からだ

 反転する視界。


 そして、はためく俺の白衣。

 ていうか、真っ黒に汚れてるなこれ。


 あぁあぁ、最後くらいクリーニングでも出しておけばよかったなぁ。

 まぁでも、そう言えば大学の研究室に過炭酸ナトリウムの粉末あったっけか。あれでなんとかできるよなって……もう遅いか。

 

 地面が近づいてくるのが見える。


 俺はその瞬間、悟った。


 あぁ、これは死ぬな、と。


 まさか、こんな風に死ぬなんて思っても見なかった。


 インターンに来ていた会社の開発実験に参加してたら、同じくインターン生の女の子が薬品の量の調整をミスってそれが一瞬目に入って、次の瞬間には体が勝手に動き出していた。


 そしたらそれはもう、勢いでガラスを突き破ってビルの外へ真っ逆さま。


 ほんと、死ぬときのことはわからないってよく言うがその通りだな。

 最後が人を救うってちょっとかっこいいけど。


 って、なんで俺こんなに考え事で来てるんだろう?


 あれかな、走馬灯そうまとうってやつか?


 そうか。

 思い残すことはまだたくさんあるよなぁ。


 彼女も出来たこともないし、かれこれ数年は女の子と私的プライベートな会話をしたことだってない。


 大学入って、いい感じのサークルに入ることもできず、ただひたすらに勉強とバイトに打ち込み、挙句卒業が近づいて就活前にインターンに来た。


 そんな誰が見ても面白くなさそうな人生を歩んできた。


 その人生の最後に見る景色はこんなのだったとは……何かの皮肉かなぁ。


 まだここから。

 童貞だって捨てれられていない。

 彼女作ってきゃっきゃうふふな社会人生活を夢見ていた。


 本当に、ここから、ここからなんだ。


 ——て、あぁ、死ぬ。

 やばい。なんか意識もなくなってきた。


 次の人生は……今の人生よりもより良いものにできたら……いいなぁ……それと、女の子にモテたいな。




 ——————————————



「——っは!」


 目を覚ますとそこは一面、真っ白な世界だった。


「え?」


 声が響く。

 ふと視線を降ろすとそこには小さな手と体があった。

 まるで俺の手じゃないみたいだけど、すぐに思いだした。


 これ、俺の子供の頃の姿だ。


 毎日のように半そで短パン、サッカーボール片手に近所に遊びに行ってたっけか。


 懐かしいな、ちょっと泣けてくる。


「——って、ここどこだよ?」


 溢れ出そうになる涙をすんでのところで食い止め、俺はもう一度周りを見渡した。


 永遠に真っ白な世界。

 何もなく、地平線が永遠と続く世界だった。


 ここはどこか、それになんでこんなところにいるのかも分からない。


 そういえば、俺ってさっきまで何をしてたんだっけ?


 えっと……あぁ、そう言えばインターンに行ってたんだよな俺。


 22歳で就活中で、夏休みは時間もあるし、第一志望の会社に行ってたんだ。


 たしか名前は……ケミカルエレクトロニクス株式会社。

 主に化学製品や電子製品の販売開発を行っている誰もが知っている大企業だ。


 で、それで……そうだ。開発実験のお手伝い中に隣の女子大生が調合ミスって爆発して、何とか庇って守ったけど勢いで俺が窓突き破って真っ逆さま。


 気づいたら気を失ってて……ここに?

 ってことは一命を取り留めたのか、俺!?


 いや凄いな、あの爆発を受けて生きていたのは。


「いいえ、あなたは死にましたよ」


 すると、途端に声が聞こえてきた。

 

「え?」


 急すぎて体がビクッと跳ねた。

 思わず、体を振り向くとそこにはとても美しい天使がいた。


「て、天使……?」


「天使じゃないです。私は女神です!」


 きりっとした紅色の瞳、そして透き通ったスカイブルーの長髪。


 背中からは等身大以上の純白な翼が生えていて、大きな胸を隠す様に過度な露出を控えたかのような純白ワンピースを着ている自称女神は地団駄を踏んだ。


 女神、言われて見ればそうかもしれないが……じゃあなんで俺は女神の前にいるんだ?


「じゃあ、その。女神さん」


「はい、なんですか?」


「どうして俺は、女神の前に立っているんですか?」


「それは、からです」


 死んだ……から?

 ていうことは、俺ってやっぱり助かったわけじゃないのか?


 まあそうだよな、元々運が良かったわけじゃあないし。


 俺は、実験で女子庇って……そのまま死後の世界に行ったと。


 なんか、今どきのラノベみたいな展開だな。このまま異世界転生っていうのが十八番だとは思うが……。


「そして、死んだあなたには今、選択肢がございます」


 お、やっぱり、そんな感じかな。

 見たことある展開だ。

 

「選択肢は三つ」


 三つ?


 あれ、ここって普通、超絶能力を持って異世界転生か記憶を戻して元の世界へ――って言うのが定番じゃないのか?


 三つ目の選択肢なんて展開的には聞いた事がないような……。


「一つ目は記憶を戻して元の世界をやり直すこと」


 一番オーソドックスなやつだな、でも主人公たちは大抵選ばないやつでもある。


「二つ目は記憶をそのまま、何もない世界、天政界に行き神として余生を過ごすこと」

 

 これまた聞いた事がない選択肢だ。


 あれなのか、命を全うして仏になったから悟りを開いて”きょうじゅろう、お前も神にならないか?”ってやつ。


 うん、どこぞの上限の参も泣いちゃう台詞だな。


 神になるならいい物語なのにな。


「そして、三つ目は現世の力と同じ能力値、それにちなんだスキルを要し異世界に転生すること」


 お、きた!

 異世界転生!

 これだよなぁ、これ! 


 こうでもしなきゃ死んだ意味がないんだしな~~、俺だってアニメの主人公みたいに多少は足掻いて精を全うしたい!


「じゃあ三つ目で!」


 もちろん、即答だ。


 一度死んだ命、それを拾ってここまで手厚く選択肢をくださるのなら行く以外他あるまいて。


 それに、異世界って言うのは大抵魔王か何かが幅を利かせて侵略をしているような世界だ。


 いっそ、今度こそ誰かをかっこよく救ってみたい――なんて思いだってある。


「本当に、よろしいんですね?」


 すると、女神さんは少し怪訝な表情で確認を取ってきた。


 どこか不安そうで、それでいて苦しそうな表情。


 ただ、俺の思いは変わらない。


「もちろん。異世界でお願いします」


 そこまで言い切ると笑みを溢して、呟いた。


「まぁ、これも運命なのでしょう。きっと」


 思いだす様に天を見上げ、両手を広げ何かを詠唱し始めた。


『この世界に別れを惜しみ、世界と異世界の扉を開き、天と地の理を解き明かす数多の人間たちよ。その一人、この大きく広い世界でもがき、命をとしたあなたに――精霊と神の御加護があらんことを』


 長い詠唱。


 すると、徐々に光り輝き目の前がうっすらと白い靄が掛かりだす。


 体が浮き、さかさまに。


 徐々に女神さんが遠くなっていくのが分かり、俺は悟った。


 転生が始まった。


「運命に抗い、命の花を咲かせ、異世界に名を残せるように私からささやかながらギフトを差し上げます」


 手を合わせ、祈る様にそう言う彼女。


 ギフト?

 なんだ、それは。


「前世で救った命をどうか、どうか……これは細やかな恩返しですっ!」


 恩返し?


 あの、ビルの屋上で救った彼女の事か?

 それでギフトがもらえる。


 うぉ、それこそ異世界転生の醍醐味じゃないか!


 高鳴る胸の鼓動を落ち着かせ、俺はふと条件を思い出す。

 

 って……ん?


 


 これってつまり、チート能力がないのか?

 俺の能力とか平凡だし、ってあれ?


 ていうことはあの時の苦渋の表情は、俺のステータスを鑑みてになるのか!?


 おい、それはちょっと不味くないのか? 


 持たざる俺が異世界に転生したら、破滅フラグしか立たないんじゃないのか!!!!


 切り返そうとするも時すでに遅し。

 俺の意識はその瞬間途絶えt———————。

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