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 昼夜逆転、ファストフードを筆頭とした気ままな間食、歩きスマホに寝正月。

 若さにかまけた不摂生な生活により、着実に積もり始めていた身体の澱みが解消されたメイコちゃん。

 さぞ上機嫌だろうと思いきや、一体何が不満なのか、軽い足取りに反した厳めしい表情で正面を睨み、獣じみた前屈みの姿勢で歩いています。

 可愛くないですね。やれやれ。


 そういう態度は災いを招く元だと、まだ理解していない模様です。


「ごぶっ」


 美しいスパイラルを描き、メイコちゃんの鳩尾を叩く楕円球。

 NFLのスター選手が投げるタッチダウンパスよりも強烈な一球入魂。精神注入棒は単なる虐待なので却下されています。


「げほ、っ、げほっ……もうヤダぁ……」


 おっと。とうとう精神が限界に達した様子。

 メイコちゃん泣きそうです。次に何か仕掛けたら、決壊は確実でしょう。


 それは宜しくありません。古来より泣く子と地頭には勝てぬと申しますように、例え黒ギャルであっても女性の涙には敵わぬのが紳士というもの。


 延いて、頃も良し。

 名残惜しいこと極まれりですが、そろそろカーテンコールと参りましょう。






「…………あ」


 石で鎖された薄暗い道の先に差す、眩い光。

 そう、出口です。ついにメイコちゃんは辿り着いたのです。


「っ!」


 息急き切って駆け出すメイコちゃん。素足なので小足を踏んだだけでも大惨事ですが、当ダンジョンは安全を第一に配慮しているので大丈夫です。

 幸いなことにモンスターもトラップも無く、あっという間に辿り着きます。


 ──光溢れる、二つ並んだ扉の前に。






 片方は何の変哲も無い木枠の扉。

 もう片方は、抜けた先に無数の宝石が散らばった黄金の扉。


「フン、そーゆーこと。どっちかアタリで、どっちかハズレってわけ」


 御明察。

 とは言え、こんな見え透いた二択に引っ掛かる愚か者など、三千世界広しと言えど──


「こんなんキラキラな方が正解に決まってんじゃん! 見りゃ分かるってのバーカ!」


 メイコちゃんくらいだろうと思っていましたとも。あーあ。

 欲深な人間は身を滅ぼすという古今東西より随所で語られる教訓が、まるで身に付いていないようです。


 こういう子が、一日一時間の簡単な作業で月収百万円、などの胡散臭さ天元突破な謳い文句に騙され、怪しいセミナーに参加し、身を持ち崩すのでしょう。

 ややもすれば幸運の壺とか、雑誌裏で紹介される金運ブレスレットとかにも引っ掛かりそうです。先行き不安ですね。


「きゃー! やっば、欲しかったバッグとかもあるじゃん! 慰謝料として貰ってこ!」


 俗物根性丸出しです。月に五万円もお小遣いを貰っていながら、まだ足りないみたいです。

 もしかするとメイコちゃんは、性格がキツいとか頭が悪いとか以前の話、単純にアホなだけなのかも知れません。


 ともあれ、めぼしい品を全て回収し終え、ルンルン気分で光を目指すメイコちゃん。

 ここまで来ると呆れよりも心配が勝ります。親御さんは一体彼女にどんな教育を施していたのでしょうか。明らかな監督不行き届きです。


 さて。そして当たり前ですが、世の中そんなに甘くありません。


「……は?」


 光を抜けた先でメイコちゃんを待っていたのは、先程と同じく石で鎖された一本道。

 見事ハズレを引いた彼女は、もう一回、ダンジョンを抜けなければなりません。


 ちなみに、拾った金品は全て消えました。

 苦難を越えても得るものが何も無い。社会とはそういうものなのです。





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