第13話 縋るような視線
「ショッピングモールという場所には、本当に色々なお店があるね?」
「ええ、大抵のものはありますよね……」
俺は夜空先輩とともに、ショッピングモール内を歩いていた。
目的地は特に決めていない。ぼんやりと歩いてみようということになったのである。
俺達の目の前には、色々な店がある。本屋さんや百円ショップ、それに服屋さんといった色々なお店はどれもそれなりに賑わっていた。
「……本屋さんに行ってみてもいいかな?」
「ええ、もちろん構いませんよ。何か欲しい本とかあるんですか?」
「そういう訳ではないけれど、なんとなくあったら入ってしまうんだよね」
「ああ、その気持ちはなんとなくわかります」
夜空先輩の気持ちは、なんとなくわかった。俺も本屋には特に目的もなく寄ることは多い。そうして入った本屋で目に付いた本を買って帰る所までが、大抵セットである。
「夜空先輩は、どんな本を読むんですか?」
「ふむ、それなら逆に質問させてもらおうかな? 君は私がどのような本を読んでいると思う?」
「え?」
夜空先輩に質問を返されて、俺は少し悩んでしまった。
彼女がどのような本を読むか。それは中々難しい質問である。
なんとなく漫画なんかは読まなそうなイメージがあるが、どうなのだろうか。それは俺の偏見という可能性もあるのだが。
「先輩はなんとなく小説とかを読んでそうですね……純文学みたいな感じのイメージがあります」
「ふふ、やはり皆そんな感じのイメージがあるんだね」
「えっと……ということは、本当の夜空先輩は違うんですか?」
「ああ、実はね。私は漫画とかも結構読むんだよ?」
「あ、そうなんですか……」
夜空先輩の言葉に、俺は少し驚いていた。
やはり俺が先輩に持っていたイメージは、偏見でしかなかったようだ。というか、俺以外の人達もそういう偏見を持っていたらしい。
「私の父は漫画が結構好きでね。読み終わった本をよく勧めてきていたんだ。だから、基本的に流行り物なんかは読んでいるんだよ」
「ああ、お父さんの影響なんですね……」
「まあ、そうだね。私が意外と父から色々と影響を受けているんだ」
「そうなんですね……」
夜空先輩は、お父さんとかなり仲が良いようだ。その笑顔からは、それが伝わってくる。
ただ現在彼女の彼氏をやっている俺からすれば、少々怖い。俺との関係が知られたらどうなるのかを考えてしまったからだ。
俺が夜空先輩を愛していて、本気で付き合っているなら全力でぶつかればいいだけである。しかし俺はそうではない。そんな中途半端を彼女のお父さんは許してくれるのだろうか。
「総一、どうかしたのかい?」
「ああ、いえ、すみません。少し夜空先輩のお父さんのことを考えていました」
「私の父のことを? それは一体、どういうことなのかな?」
俺の返答に、夜空先輩は驚いたような顔をしていた。
確かに急にこんなことを言われた変に思われるのは当然だ。少し順番を間違えてしまったようである。
「夜空先輩のお父さんが、今の関係を知ったらどうなるのかと考えてしまったんです」
「私の父が……私達の関係を?」
「俺達は恋人ですけど、愛し合っている訳ではありません。そういう関係を夜空先輩のお父さんは認めてくれるのでしょうか?」
「……それはどうだろうね?」
俺の言葉に、夜空先輩はゆっくりと目をそらした。
その反応からして、やはりこの関係は認めてもらえないということなのだろう。まあそれは当然のことではあるのだが。
「まあ、ばれなければ大丈夫さ」
「それはそうかもしれませんが、やっぱり少し釈然としませんね……」
俺は今まで、先輩の家族からどう思われるかなんて考えていなかった。
しかしそれはまずかったのかもしれない。もっと広い視野を持って、このことを考えるべきだったのではないだろうか。
「……総一、そのことに関して君は気にする必要はない」
「夜空先輩?」
「細かいことなんて忘れてくれたまえ。君は私の彼氏で、私は君の彼女、それでいいじゃないか」
夜空先輩は、俺に対して縋るような視線を向けてきていた。
その視線はどこかで見たことがあるような気がする。それは彼女にこの提案をされた時だっただろうか。
どうしてそんな顔をするのかが、俺にはわからない。ただこういう目をされてしまうと、こちらとしては頷くしかない。
「……わかりました」
「うん。それなら良かった」
俺が頷くと、夜空先輩は笑顔を見せてくれた。
その嬉しそうな笑顔に、俺はよくわからなくなった。彼女にとって俺との関係は、そんなにこだわるようなものなのだろうか。
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