第14話 知らない再会
デートが終わって、俺は夜空先輩を家まで送っていた。
彼女の家は、かなり大きい。豪邸という程ではないが、少なくとも一般的な家庭ではないと一目でわかるくらいの大きさだ。
「総一、今日は楽しかったよ。ありがとう」
「それはこちらの台詞ですよ、夜空先輩。本当に今日はありがとうございました」
そんな家の前で、俺は夜空先輩とそのような会話を交わしていた。
今日は本当に楽しかった。その気持ちは、お互いに同じようだ。
色々とあったけど、先輩が楽しんでくれたのなら何よりである。俺も楽しかった訳だし、今回のデートは概ね良かったといえるのではないだろうか。
「それでは、総一……うん?」
「夜空先輩? どうかしましたか?」
「総一、今すぐここから離れるんだ」
そこで夜空先輩は、急にそのようなことを言ってきた。
彼女は、かなり焦ったような表情をしている。そのことから、それが非常事態であるということはわかった。
しかし俺の体はすぐに動いてはくれなかった。思わず何が起こっているのかを理解しようと周囲の様子を窺ってしまったからだ。
「……おや」
そんなことをしている内に、夜空先輩が焦った原因は俺達の前まで来てしまっていた。その人物は、俺と夜空先輩を交互に見て笑う。
「これはこれは……ふむ、どうやら面白いことになっているようだね」
夜空先輩とよく似た顔をしている男性は、彼女とよく似たような口調でそのように言ってきた。
その表情は、先程から変わっておらず笑顔だ。その表情からは、特に敵意のようなものは見えてこない。
しかしながら、それはまだ彼が状況を完全には理解していないからなのだろう。真実を知られたら、きっとこんな表情はしないはずだ。
「久し振りだね、総一君」
「……え?」
俺が色々と考えていると、その人物が俺に話しかけてきた。
それに俺は驚いてしまう。何故かわからないが、俺と既に面識があるような感じの挨拶だったからだ。
そんな俺の驚きに対して、向こうも驚いている。それがまた理解できず、俺は混乱してしまう。
「おや、私のことを知らないのかね?」
「え、えっと……夜空先輩のお父様、ですか?」
「その認識は間違っていない。しかしながら私と君はもっと興味深い関係であるはずだが、それは教えられていないのかな?」
「……どういうことですか?」
「ふむ……」
夜空先輩のお父さんは、俺の前で考えるような仕草を見せた。
そういう仕草も先輩とそっくりで、やっぱり親子なんだなと思ってしまった。今はそんな呑気なことを考えている場合ではないのに。
「夜空、事情を説明してもらえないだろうか?」
「……それは別に構わないけれど」
「おや、何か問題でもあるのかね?」
「彼の前では話したくない」
夜空先輩とお父さんの会話に、俺はさらに混乱することになった。
一体、これはどういう状況なのだろうか。それがまったくわからない。
しかも会話的に、俺はその事情を説明してもらえなさそうだ。
「……総一、すまないね。今日は本当にありがとう。それからすまない。どうか今日はもう帰ってくれたまえ」
「……わかりました」
夜空先輩はまたも縋るような視線を俺に向けてきた。
あそこまで焦っていたことからもわかるが、先輩は俺とお父さんを会わせたくなかったのだろう。
それがどうしてなのかはわからない。だが今は彼女の要求を受け入れるべきだろう。きっといつか、夜空先輩は事情を話してくれるはずだから。
「……総一君、すまないね。娘のわがままを聞いてもらって」
「あ、いえ……」
「まあ、また会うこともあるだろう。その時にはきちんと話がしたいものだね」
「は、はい……」
夜空先輩のお父さんの言葉に、俺はゆっくりと頷くことしかできなかった。
こうして俺は、混乱しながら帰路に着くことになったのだった。
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