第11話 初めての回転寿司
俺は夜空先輩とともに回転寿司に来ていた。
既に一時を回っていたためか、すんなりとテーブル席につくことができた。水族館を想定以上に楽しんだことが、功を奏したようである。
「ふむ……」
向かい合って座っている夜空先輩は、目の前で動いている寿司を興味深そうに見つめている。
俺に気を遣っての発言だと思っていたが、回転寿司に興味があるというのは嘘ではなかったのかもしれない。先輩のきらきらした目を見ていると、そんなことを想ってしまう。
「これは、ここから自由に取ってもいいのかな? 恥ずかしながら無知なものでね……」
「ああ、そうですよ。自由に取っても大丈夫です。あ、でも食べた皿を戻したりはしないでくださいよ?」
「ああ、それはもちろん心得ているとも……うん?」
俺は夜空先輩と話しながら、お茶の準備をしていた。
そんな俺に、先輩は怪訝な視線を向けている。別に変なことはしていないと思うのだが、一体どうしたのだろうか。
「総一、君は何をしているんだい?」
「お茶を入れようと思って……ああ、先輩は熱いのが苦手ですか?」
「いや、それは平気だよ。しかし、どうやってお茶を入れるんだい?」
「え? ああ……」
先輩の言葉によって、俺は彼女の視線の意図を理解した。
彼女は、お茶を入れる仕組みがわかっていないのだろう。粉末だけあって、どこからお湯が出るのかを理解していないのだ。
確かに俺も最初に来た時は、席にある黒いボタンのようなものと蛇口が何かなんてわかってなかったような気がする。先輩が手を洗ったりする恐れもあったので、それはもっと早く説明するべきだったかもしれない。
「こうするんですよ」
「ああ、そこからお湯が出るのか……興味深い仕組みだね」
「先輩もやってみますか?」
「うむ」
夜空先輩は恐る恐るといった感じで、お茶の粉末が入った湯呑を黒いボタンに押し当てた。すると当然、蛇口からはお湯が出てくる。
「ふふ、面白いものだね。変な話かもしれないが、少し感動しているよ」
「まあ、そうですね。俺も初めて見た時は結構感動したような気がします」
「やはり皆そうなのかな?」
「どうなんでしょうね?」
俺はこの仕組みに確かに感動したが、それは小さな頃の話だ。あの頃は見るもの全てにわくわくしていた。子供で純粋だったから感動できたという面はあるだろう。
そう考えると、夜空先輩はかなり純粋であるのかもしれない。いやそれとも、ファミレスや回転寿司に馴染みがなければ、どんな年齢でもこんな反応になるのだろうか。
「……総一、今流れているのは何かな?」
「え? ああ、それはサーモンですね。チーズが乗っているんです」
「そういうのもあるんだね。ふむ、食べてみようか」
夜空先輩は、流れてきたチーズが乗ったサーモンの寿司を手に取った。
彼女が普段行っているような寿司屋さんでは、そのようなものは取り扱っていないだろう。だからだろうか。夜空先輩はその寿司に目を輝かせている。
「いただきます……うん。これは美味しいね」
「夜空先輩?」
寿司を食べた夜空先輩は、少し歯切れが悪い反応をしてきた。
もしかして、あまり口に合わなかったのだろうか。普段は高級な寿司に行っている訳だし、その可能性はある。
「あ、いや、その、滅茶苦茶美味しいとは思うんだ。だけどね、これはなんというかいけないものを食べているような感覚になるね……」
「いけないもの……まあ、なんとなくわかりますね」
夜空先輩の懸念は、なんとなく理解することができた。あの寿司は結構脂っこい。だから先輩はそのような表現をしたのだろう。
とはいえ、美味しいと思ってもらえているならとりあえず良かった。回転寿司でも先輩の舌をなんとか満足させられそうだ。
「まあでも、せっかくこういう所に来たのだから、こういう所特有のお寿司を食べてみたいからね。他にも色々とあるのかな?」
「ああ、そういうことなら結構色々とありますね。天ぷらとか牛カルビが乗っているものなんかはどうでしょうか? 頼みましょうか?」
「それはすごいね……というか頼めるのかい?」
「あ、はい。注文もできるんですよ」
「……まあ考えてみれば当たり前か。ふむ、それなら頼んでもらおうかな?」
「はい、わかりました」
夜空先輩の言葉に、俺はゆっくりと頷いた。
こうして、俺達はしばらくの間回転寿司を楽しむのだった。
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