第8話 二人での帰り道

 生徒会を手伝ってから、俺は夜空先輩と一緒に帰っていた。

 放課後もそうだったが、生徒会でも色々と質問された。やはり、俺と先輩の関係は校内でもとても注目されているようだ。


「まあ、君が思ったよりも批判されていなくて、安心はしているんだけどね」

「ええ、それについては俺も驚いてします」

「……こういう言い方はあまり好きではないけれど、私と対等だと皆は思ってくれているという訳だ。事実として、君は大物だった訳だけれど、とにかくいい傾向だね?」

「いい傾向……そうですね。そう思います」


 夜空先輩の言う通り、校内で認められているという雰囲気になっているのはありがたい。これなら恐らく厄介なことにはならないだろう。

 雰囲気というのは、とても重要だ。それによって人は流される。つまり今なら滅多なことは起こらないはずなのだ。


「さて、総一。せっかく一緒に帰っているのだから、少し恋人らしいことをしてみないかい?」

「恋人らしいこと? なんですか?」

「……手を繋いでみるというのは、どうだろうか?」

「手ですか……」


 夜空先輩の提案に、俺は少し緊張していた。

 教室から出て行く際に手を繋いだ時も、俺はドキドキとしていた。やはり異性と手を繋ぐというのは、俺の中でそれなりに大きなことなのである。

 ただ恋人という関係であるなら、それは普通のことだ。だからここは勇気を出してその提案に乗ってみよう。


「よ、よろしくお願いします……」

「ああ、それでは、どうぞ……」

「失礼します」


 許可を取ってから、俺は夜空先輩の手を握る。

 同じ手であるというのに、彼女の手は俺のものとはまったく違うものであるように思えた。柔らかくて温かくて、ドキドキしてしまう。


「ふ、ふむ……」

「えっと……とりあえず歩きましょうか?」

「あ、ああ、そうだね。何をしているんだろうね、私達は……」


 ドキドキしたからか、俺は思わず足を止めていた。ただそれは、夜空先輩も同じだった。彼女も自然と足を止めていたのである。

 とりあえず俺達は、再び歩き始めた。しかしお互いに緊張している。それは間違いない。


「ああ、そうだ。君は今週末などに予定はあるかな?」

「いえ、特にはありませんよ」

「それなら、一緒にどこかに出掛けるとしよう。所謂、デートというやつだ」

「デ、デートですか?」


 夜空先輩の言葉に、俺はかなり動揺していた。

 だが、冷静に考えてみるとそれは別におかしなことではない。俺と夜空先輩は付き合っているのだから、当然デートもするだろう。

 しかしながら、女の子と一緒に休日に出掛けるというのも俺にとっては結構大きなことだ。だからとても動揺してしまう。平静ではいられなくなる。


「も、もちろん俺としては嬉しいですけど……いいんですか?」

「いいに決まっているとも。だから提案しているんじゃないか」

「あ、そうですよね。すみません、少し舞い上がってしまいました」

「いや構わないさ。謝るようなことではない」


 なんというか、今度の休日がとても楽しみだ。きっと楽しいだろう。しかしどこに行くのだろうか。


「行き先は決めているんですか?」

「ぼんやりとは決めているよ。だけど、君に希望があるなら聞いておきたい」

「希望ですか? いえ、それは特にありませんね……デートというと、水族館とかが思い付きますが」

「おっと……」


 俺の言葉に、夜空先輩は驚いたような顔をしていた。

 そういう反応をするということは、先輩が決めている行き先は水族館だったということなのだろうか。


「まさか思考が一致するとはね……どうやら、私達は相性がいいみたいだ」

「そ、そうかもしれませんね……」

「水族館は好きなのかい?」

「まあ、嫌いではありませんね。ただ好きという訳でもありません。もう随分と行っていませんし……」

「ふむ、それは私も同じだ。ただデートするなら水族館かと思ったんだ。不思議なものだね。普段は、そんな所にそれ程興味がなかったのに」

「まあ、定番ではあるんじゃないですか?」


 俺も夜空先輩も、単純にデートと聞いてメジャーな場所を思い浮かべただけのようである。それなら思考が一致することも、そこまでおかしくはないのだろうか。

 ただ、それは俺としては少し残念だ。せっかく相性がいいと言われて喜んでいたのに、素直に喜んでいいのか微妙になってしまった。


「まあ、そういうことだからよろしく頼むよ」

「こちらこそ、よろしくお願いします」


 何はともあれ、夜空先輩とのデートが決まった。

 いい所が見せられるように頑張ろう。俺はそんなことを思いながら、夜空先輩と一緒に帰るのだった。

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