第7話 見えてくる評価

※一部キャラクターの名前を変更しました。宇都宮→宇原


 夜空先輩との昼食を終えた俺は、教室に戻ってきた。

 しかし教室内は、どうもおかしな様子だ。微妙な空気が漂っている。

 とりあえず俺は友人である坂崎の元に向かうことにした。坂崎はいつも通り、彼女である宇原うばらさんと一緒だ。


「おお、総一」

「あ、総一君、大変なことになってるよ」

「大変なこと?」

「心当たりはあるんじゃないか?」


 俺が近づくと、二人は焦ったような驚いたような顔で迎えてくれた。

 その言葉から察するに、教室が微妙な雰囲気なのは俺が原因ということなのだろう。心当たりはもちろんあるので、それはなんとなく考えていたことではある。


「俺と夜空先輩のことか?」

「ああ、その通りだ。お前、なんだか知らないが大胆なことをしたみたいだな?」

「あの時はあれが一番いい方法だと思っていたんだが、どうやら間違いだったようだ。騒ぎを大きくしてしまった」

「……いや、そうでもないさ」


 俺の言葉に、坂崎はゆっくりと首を振った。

 その返答は、正直意外である。しかしあの行動が間違いではないというのは、一体どういうことなのだろうか。


「まあ、学校のアイドル的な存在である黒宮先輩が、どこの誰かもわからない二年生と付き合っているという情報はかなり話題になっているみたいだが、それでも状況は多分そんなに悪いものではないさ」

「そうなのか? 夜空先輩は、俺が色々と問い詰められることを懸念していたが」

「そこでお前がした行動が注目されたのさ。上級生の教室に堂々と入って、夜空先輩と付き合っていると宣言した。そんな感じだったんだよな?」

「ああ、概ね間違っていない」

「それがなんというか、すごいと言われているんだ」

「ほう?」


 坂崎の言葉に、俺は淡白な反応しか返せなかった。なんというか、まだあまり内容が入ってこなかったのだ。


「俺は夜空先輩の彼氏として認められているのか? 反感などがあるかもしれないと先程先輩と話した所なんだが……」

「まあ、悪い評価ではなさそうだ。いやそもそも個人の関係なのに、認めるとか認めないとかがおかしな話ではあるんだがな」

「……あの行動で、そうなったのか?」

「ああ、そうさ。まあ、お前の勇気が評価されたんだろう。普通に考えたら、そんなことはできないからな。お前のちょっとおかしな所が上手く働いたらしい」


 坂崎は俺のことを褒めているのか、貶しているのかよくわからない感じだった。

 しかし俺の行動が結果的にいい方向に働いてくれたのは事実であるらしい。それは俺にとっては、嬉しい誤算だ。


「まあ、でもどうしてお前が黒宮先輩と付き合ったのか、皆気になってはいるみたいだがな……」

「どうして付き合ったか、か。それに関しては、俺もまだよくわかっていないんだよな……」

「それはそうだよな。お前が彼女が欲しいって叫んでいたら黒宮先輩がやって来て、何故か付き合うことになった。正直、訳がわからない」


 皆が俺と夜空先輩の関係に疑問を感じるのは、当然のことである。俺自身だって、何故付き合えたのか完全にはわからないのだから、他の人にわかる訳がない。

 俺と彼女に、接点はなかった。同じ学校に通っていたが、関わったことは一度もない。俺は夜空先輩のことは認識していたが、彼女にとって俺は一生徒に過ぎなかっただろう。

 それなのに、どうして俺の願いを叶えてくれたのか。それがわからない。もちろん、夜空先輩が言っていたことが全てという可能性もないという訳ではないのだが。


「明莉的にはどう思う?」

「え? 私?」

「いや、同じ女性の観点から考えられないか?」

「えっと……」


 そこで坂崎は、宇原さんに話を振った。確かに、俺や坂崎が考えるよりも彼女の方が夜空先輩に近い視点を持てるかもしれない。

 ただ、その反応的に宇原さんにもわかる訳でもなさそうだ。男女関係なく、夜空先輩の行動は謎ということだろうか。


「……一目惚れとか?」

「一目惚れ?」

「例えばだけどね。総一君に一目惚れしていて、それでその天川君が彼女が欲しいって言ってたから、提案したとかどう?」

「……まあ、あり得ない話ではないか」


 宇原さんが出した結論は、ある程度は納得できるものだった。

 確かに夜空先輩が俺に一目惚れしているなら、それはあの提案は成り立つだろう。坂崎の言う通り、可能性としてはあり得ない訳ではない。


「総一の顔は、黒宮先輩の好みの顔か……ちなみに、明莉としては俺の顔は好みの顔なのか?」

「え? いや、それはまあ、好みだとは思うけど……」

「なんだか歯切れが悪くないか?」

「……正直わかんない。それって鶏が先か卵が先かみたいな話だし」

「どういうことだよ?」


 俺が色々と考えている内に、二人はいつも通り二人の世界に入ってしまった。

 夜空先輩は、本当に何を考えているのだろうか。それが未だにわからないというのは、少しもどかしい。その真意がわかれば、俺と彼女ははもっと分かり合えるような気がするのだが。

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