第4話 恋人らしく昼食を
「まあ、ここなら誰も来ないだろう……」
俺は夜空先輩とともに、生徒会室に来ていた。
先程の件によって、人目がつかない場所の方がいいと判断したのだろう。
「勝手に使っていいんですか?」
「別に構わないさ。生徒会長が生徒会室を使っていけない理由なんてある訳もない」
「なるほど……えっと、先程はすみませんでした。俺のせいで、色々と迷惑をかけてしまったみたいで」
「いや構わないよ。配慮不足だったのは、私の方だ。迎えに来る君の立場をまったく考えていなかった。まあとりあえず適当な場所に座ってくれ」
窓際にある大きな机の前に腰掛けた夜空先輩は、俺にそのように促してきた。
しかしどこに座るべきだろうか。残っている机はどれも役員が座るものであるためか、会長の席に座っている夜空先輩の彼氏である俺が座る場所としてどうもしっくりこない。
「夜空先輩、申し訳ありませんがこちらに席に座っていただけませんか?」
「む? それはどうして?」
「先輩がそちらに座っていると、どうしてもカップルという感じではなくなると思うんです。会長と役員の関係で座ることになりますから」
「ああ、なるほど、それも私の配慮不足だったね。確かに君の言う通りだ。ついいつもの癖でここに座ってしまった」
「いえ、わざわざすみません」
俺の提案に、夜空先輩は応えてくれた。
彼女が役員の席に座ったのを見てから、俺はその隣の席に腰掛ける。カップルであるなら、これが適切な距離感であるだろう。
「……対面ではないのかい? その方が話しやすいと思うのだけれど」
「カップルというものは基本的に距離感が近いと思うんです。まあでも、夜空先輩の言う通り話しやすいのは対面ですかね」
「ああ、いや、大丈夫。そのままでいいよ。君の言っていることの方が正しい気がする。公共の場ならともかく、二人きりなのだから距離が近い方が恋人らしいよね」
立ち上がろうとした俺を、夜空先輩は引き止めてきた。とりあえず、この並び順に納得してくれたようだ。
「しかし君はすごいね。カップルらしさというものをよくわかっている」
「近くにカップルがいますからね」
「ああ、そういえばそうだったね。ふふ、これは頼もしいよ。何せ私は、そういったことに詳しくないからね」
昨日の帰り道、夜空先輩は俺に「これからはカップルらしいことをしていきたい」と言ってきた。
そこで俺が参考にしているのが、坂崎と宇原さんである。身近にいるカップルがどのように接しているかを考えれば、自ずとそれらしいことができると思ったのだ。その考えは、どうやら間違ってはいなかったようである。
「さて、それでは早速お昼にしようか? 君もお弁当なんだよね? お母さんが作ってくれたのかな?」
「あ、えっと……一応、自作なんです」
「え? 自作?」
「ええ」
俺は机の上に、自分の弁当を広げていく。
夜空先輩は、じっとその弁当を見ている。俺が作ったということが、信じられないのだろうか。
「き、君は料理ができる人なのかな?」
「料理ですか? まあ、それはできない方ではありませんけど、これは冷凍食品が主ですよ?」
「冷凍食品が主というのは、どういうことなのかな?」
「えっと……まあ要するに、電子レンジでチンすればできるということです。だから料理という程大そうなものではありませんね。料理したのはどちらかというと、作ってくれたメーカーさんの方です」
「そういうものなのか……」
俺の言葉に、夜空先輩は感心していた。
昨日家まで送る前から知っていたことだが、夜空先輩の家は結構お金持ちであるらしい。だから冷凍食品には馴染みがないということなのだろう。
ただこれは本来であれば、感心されるようなことではない。俺の作った弁当は、冷凍食品や余り物によって作られている。要するに俺はただ詰めただけだ。
「私は基本的に料理は家政婦さんに任せているからね……なんというか、そういう話を聞くともう少し料理について学んでおくべきであるように思えるね」
「もしも先輩がそうしたいなら、家政婦さんに聞いてみたらいいかもしれませんね。そういったことのプロフェッショナルでしょうし」
「ああ、そうだね。今度聞いてみるよ」
俺の言葉に、夜空先輩は笑顔を浮かべてくれた。
その表情を見ていると改めて実感する。彼女は本当に美人であると。
「そのお弁当も家政婦さんが?」
「その通りだよ。彼女の料理はいつもおいしくてね。ついつい食べ過ぎてしまうのが、唯一の欠点かな?」
「それは幸せな悩みですね」
「ああ、違いない」
夜空先輩は、俺との会話を楽しんでくれているような気がする。
そのことに俺は少し安心していた。きちんと彼氏ができていると思えたから。
正直な話、先輩の彼氏なんて荷が重いと思っていた。誰かと付き合ったこともない俺が、先輩の大切な一年間を楽しいものにできるのかが心配だったのだ。
しかし俺と夜空先輩の相性は悪くないように感じるし、これならなんとかなるかもしれない。もちろん絶えず努力する必要はあると思うが。
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