第3話 毅然とした態度で
「……それで、お前は黒宮先輩と付き合うことになったのか?」
「ああ、そういうことになった」
「う、羨ましい……」
夜空先輩と付き合うことになった日から一夜明けて、俺は今日も学校に来ていた。
そこで友人の坂崎に昨日あったことを話した所、このような反応が返ってきたという訳である。
付き合うことになった経緯は少々理解しにくいものであるだろう。だから当然驚かれると思っていたのだが、坂崎は何故かまず羨ましがってきたのだ。
「
「あ、いや、
「確かに生徒会長はすごく美人だけど……」
「そういう意味ではないと言っているだろう」
坂崎の彼女である
確かに彼女の前であのような発言をしたのは明らかな失言だ。言い訳をしているようだが、少々難しいような気がする。
「ほら、俺達は紆余曲折あって付き合った訳だろう? それなのにこいつは、彼女が欲しいと言っただけで彼女ができた訳だ。それはなんというか羨ましいじゃないか」
「あーあ、まあ確かにそれはそうかもしれないけど……」
「決して、黒宮先輩のような美人と付き合えるのが羨ましいという訳ではない。俺にとって一番可愛いのは明莉だ」
「雷人……」
よくわからないが、二人の話はいつの間にかまとまっていた。
相変わらずこの二人は仲が良い。喧嘩になりそうな雰囲気だったのに、このようにすぐに立ち直るのは流石である。
俺と夜空先輩は、そのような関係になれるだろうか。それは難しいような気がする。きちんと手順を踏んだ二人と違って、あんな始まり方だった訳だし。
「さて坂崎、そういうことだから俺はそろそろ行かせてもらう」
「行く? どこにだよ?」
「夜空先輩の所にだ。実は二人で昼食を取る約束をしているんだ」
「ああ、なるほど……まあなんというか、頑張れ」
そこで俺は、ゆっくりと席から立ち上がった。
夜空先輩とは昨日連絡先を交換して、何度かやり取りを重ねている。その中で、一緒に昼食を食べようという話になったのだ。
という訳で、俺は弁当を持って二年生の教室を出た。幸いにも、三年生の教室はそれ程遠くはない。階段を上れば、すぐ傍だ。
「……」
夜空先輩のいる教室の前まで来て、俺は少しだけ緊張していた。
彼女を迎えに行くのは当然の務めだと思っていたが、流石に上級生のクラスを訪ねるのは色々とハードルが高い。
ただ、あまりうかうかはしていられない。夜空先輩を待たせる訳にはいかないからである。
「……失礼します」
一言断って教室に入ると、三年生の視線が俺に集中した。
二年生である見知らぬ俺が教室に入って来たら、それはそんな反応にもなるだろう。ただここで怯んではいられない。俺は夜空先輩を連れて行かなければならないのだから。
「俺は二年一組天川総一といいます。黒宮夜空先輩を迎えに来ました」
「なっ……」
すぐに先輩は見つかったので、俺は大きな声で呼びかけた。すると彼女は、驚いたような顔をする。俺が迎えに来ることはわかっていたはずなのだが。
クラスの人達の視線は、今度は夜空先輩の方に向いている。俺だけではなく、その場にいる全員が先輩の返答を待っているという感じだ。
「……総一、君は一体何をしているんだい?」
「何をしているか、ですか? 夜空先輩を迎えに来ました」
「いや、迎えに来てくれたのはいいんだが、どうして前から入って呼びかけるのかな?」
「俺は下級生ですから、しっかり挨拶をしておくべきだと思いました」
「な、なるほど……」
夜空先輩は、頭を抱えていた。それはつまり、俺の行動が間違っていたということだろうか。
しかし俺がこっそりと入った場合、不審に思われたのは確実だ。同級生なら顔は知れているはずだが、俺はそうではない。だから堂々と入って挨拶をした方がいいと思ったのだが違うのだろうか。
「た、確かに私もその辺りの事情は考慮するべきだったね。こっそりとは入りにくいという君の意見は納得できる」
「わかってくれましたか」
「ただ、少々目立ってしまったね。これはどうしたものか……」
夜空先輩の言う通り、クラスの視線は俺達に集中していた。
これは、事情を説明した方がいいかもしれない。どの道、夜空先輩は教室に戻ってから質問攻めに合うだろうし。
「あのね、皆……彼は、私のか、彼氏で……」
「……彼氏?」
「え?」
「黒宮さんに彼氏が?」
「年下好きだったの?」
夜空先輩の小さな呟きによって、クラスは騒めき始めた。
その反応からして、先輩は何も事情を説明していなかったようだ。全員、初めて聞くといった感じである。
「あーあ、だから夜空、今日の昼そわそわしていたんだ……」
「それなら早く言ってくれれば良かったのに……」
「あ、いや、すまない。なんというか、タイミングがわからなくて……」
「え? 天川君だっけ? 夜空とはどういう知り合い?」
「どういう知り合い? えっと……丘で会った仲です」
「丘?」
程なくして、夜空先輩の友人らしき人達が俺達に詰め寄ってきた。
どうやら昼食を取る前に、質問攻めが始まってしまったようだ。
その中で俺は、男子生徒の鋭い視線に気がついた。なんというか恨めしい視線だ。これも先輩の人気の証拠ということだろうか。
「そ、総一、とにかくここから出よう」
「あ、はい」
夜空先輩に手を引かれて、俺達は慌てて教室を抜け出した。
彼女の手はとても柔らかい。その温もりと合わせて、俺は思わずときめいてしまう。
とはいえ、事態はそれ所ではなかった。早く逃げなければ、さらなる質問攻めが待っているだろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます