11.チームメンバー

 はああ、応援とはいえ、『大好き』なんて言うのはパワー使うよー。

 もう今の一回だけで精一杯。心臓が、持たない。

 隣の子たちは、元気だなー。


「おっしゃーー、晴臣はるおみナイスレシーブ!!」

「ヒロヤ決めろ!!」

「ナイスーーッ」


 あれ、今度は大好きって言わなかった。……ナイス?

 え。もしかして……大好きじゃなくて、ナイスキーだったの!?


 それに気付いちゃった私の顔からは、多分火が出た。それはもう、轟々と燃えるくらいの火が!!


 ど、どうしよう……ッ! 大好きって言っちゃったよーー!!

 だって、ナイスキーってなによーっ

 キー……木?  キー? キープ? わけわかんない言葉、使わないでよ、もおおおおおっ!

 は、恥ずかしい……き、聞かれてないよね?? 大好きって言っても、ナイスキーだと勘違いしてくれてるよね!?

 まだ見てたいけど……恥ずかしいし、帰ろうかな……。


 どうしようか迷ってたら、試合が終わった。『オカシな国』チームの勝ちだった。


「タクマー、ヒロヤー、一ノ瀬、晴臣!! 応援に来てあげたよーー! まずは一戦目勝利おめでとー!」


 隣のハツラツとした女の子が身を乗り出して手を振ってる。その声に拓真くんがこっちを向いた瞬間、私は思わずしゃがんで隠れてしまう。


「おおー、結衣ゆい、リョウ、夏花なつか! マジで来てくれたのか! 応援サンキュー!」


 拓真くんの嬉しそうな声。

 そっか……私だけを誘ったわけじゃないよね。拓真くん……女の子の名前も呼び捨てにして、仲良さそう。

 多分、製菓学校の友達っぽい。まだ入学して二ヶ月も経ってないのに、親しい友達ができてるのは、ひとえに拓真くんの人柄なんだろうな。

 でも……私の方が、先に拓真くんと知り合ってたのに。

 私は未だに『園田さん』のまま。

 私だって、拓真くんに名前で呼んでもらいたい。まぁ、私は自分の名前が嫌いだから、呼ばれることはないんだろうけど。

 あの子たちが、ちょっと……ううん、すごく羨ましい。


「ちょっと下に行ってこようぜ」


 そう言って隣の子たちはしゃがんでいる私の後ろを通り過ぎて、下に降りていった。拓真くんと達と話をするのかな? 私も行きたいけど、お邪魔だよね。

 帰ろうかなと思ったけど、下に行って出くわすのも嫌だし、結局二階で他のチームの試合を見る。

 大きな男の人たちが、コート上で十二人も動いてる姿は圧巻だ。ルールはよくわからないけど、攻撃の決まる瞬間って結構テンションが上がるかも。

 特にピュンピュンって早く決まる攻撃。あれがすごい。

 社会人ってソフトバレーのイメージが強かったんだけど、普通のバレーも結構やってる人が多いんだなぁ。さすがに二十代から三十代前半が多そうな感じだけど。

 そうやってしばらく見学していると、『オカシな国』チームがコートに入って練習を始めた。それと同時にさっきお隣にいた人たちも二階に戻ってくる。


「タクマのチームのセッター、二十七歳だってさ」

「そうだったんだ。私よく練習見に行くけど、年齢までは知らなかったな。二十七歳だったのかぁ」

「他のチームで控えだったの、タクマに無理やり誘われたって言ってたぜ」

「あは、タクマらしいよね!」


 拓真くんの名前が出ると、つい耳がウサギになってしまう。

 病院でもそうだったけど、拓真くんって誰が相手でも物怖じしないよね。相手が子どもでも大人でも、すぐに仲良くなっちゃう。

 私は拓真くんを見た後、お隣さんの話に出てきたセッターという人を探してみた。セッターって、あの黒縁眼鏡をかけてる、多分トスを上げてる人だよね?

 あの人、なーんかどっかで見たことあるような……?


 ボーッと見ていると、練習が終わる。そしてそれぞれがポジションに着くと、ピピーッと試合開始のホイッスルが鳴った。


「オカシな国、ファイトー!」

「結衣、よくそんなチーム名を叫べるねぇ」


 ハツラツとした結衣さんという女の子に、もう一人の女の子……たしか、夏花さんが呆れたように言ってる。


「いいじゃない。オカシな国は七人中四人が製菓学校の人間なんだから。いいチーム名だと思うよ!」

「そうだな。ほら、夏花も恥ずかしがらずに叫ぶぞ!」

「ええ〜〜?」

「行くよ! せーの!」

「「オカシな国、ファイトーーッ」」

「やっぱ私は言えないわ」

「こら、夏花ー!」


 そんなやりとりを聞いて、ついクスクスと笑っちゃった。そしたらそれに気付いた結衣さんという人が、私を見てニッコリと笑いかけてくる。私もつられてニッコリと微笑み返した。


「もしかして、オカシな国の応援ですか? 一緒に応援しません?」


 わ、この子いい子かも。一人で応援するのは寂しかったし、ちょっと嬉しい。

 私はありがとうと言いながら、彼女たちの方に歩み寄る。


「私たち、あのチームにいるトキ製菓専門学校の仲間なんです。私は椿つばき結衣っていいます。今日はみんなで応援に来てて」

「あ、園田です。誘ってくれてありがとう」


 お礼を言うと、みんなニッコリと笑い返してくれる。

 もう一人の女の子は天沢あまさわ夏花ちゃん、男の子の方は真島ましまりょうくんっていう名前だって教えてもらった。

 三人ともすごくいい子で、さすが拓真くんのお友達って感じ。結構すぐに打ち解けちゃった。

 結衣ちゃんは中学の頃にバレーをやってて、高校は男子バレー部のマネージャーをやってたみたい。『オカシな国』の練習もちょくちょく見に行ってて、メンバーとは全員仲がいいみたいだった。


「リベロの速水はやみ晴臣はるおみは小学生の頃からずっとバレーやってたらしくて、さすがに上手いんですよね」


 結衣ちゃんが『オカシな国』のメンバーを一人一人紹介してくれる。

 うーん、でもリベロってなんだろう?


「ウイングスパイカーは、同じ製菓学校の陣内じんない弘也ひろやと一ノ瀬光輝こうき。三番の一七五センチの方がヒロヤで、一番の一八七センチの方が一ノ瀬です。それともう一人、社会人のたいら大和やまとさん」


 一八七センチの人がいるの?! ひゃー、大きい!


「ミドルブロッカーは二人で、今入ってるのがオカシな国を作った池畑拓真と、タクマのバイト先の先輩の緑川みどりかわ鉄平てっぺいさん」


 うわあ、みんな背が高い。拓真くんが普通に見えちゃうよ。

 その拓真くんが、相手のボールをジャンプして止めた。

 ナイスブロックっていう声が周りに響く。拓真くんは雄叫びを上げて、大喜びしてた。かっこいいんだけど、かわいいなぁ。


「うわぁ、すごいキルブロック。タクマ、ノリノリだねー」


 そんな風に言う結衣ちゃんの目は細くなっていて。なんとなく……なんとなくだけど、ちょっとだけ嫌な予感がする。


「あ、そうそう、セッターは三島みしま雄大ゆうだいさんっていう二十七歳の会社員の人です。できたてホヤホヤのチームなのに、ちゃんと司令塔として機能してて、すごいんですよねー」


 三島……雄大?

 ま、まさか……どこかで見たことあると思ったら……!

 二十七歳ってことは、お兄ちゃんと同い年。間違いない、三島さんはお兄ちゃんの中学の時の友達で、私の初恋の人だ!

 あれから十四年も経ってるから、すぐには気付かなかったけど、よーく、よーーく見てみると。

 やっぱり面影が、ある!! 昔は眼鏡なんて掛けてなかったから、気付かなかった!


「園田さんはもしかして、三島さんの応援ですか?」

「え。と、いや、その……ずっと昔の知り合いで……多分私のことは覚えてないと思うんだよね」


 ってかヤバイ。三島さんが中学生の頃、よくうちに遊びに来てたけど……三島さんは私のことを名前で呼ぶ。

 昔は嬉しかったけど、今は……特に拓真くんの前では、絶対に名前を呼ばれたくない!!


「あ、あの、三島さんには、私が昔の知り合いだっていうのは内緒にしててくれる? 多分、会っても気付かれないとは思うんだけど……」


 最後に会ったのは、三島さんが十五歳の頃だから、私は十二歳……小学六年生頃だし、さすがに会ってもバレないはず。私は三島さんが好きだったから覚えてるけど、友達の妹なんて、三島さんは覚えてないに決まってるよね。

 もし会った時には、知らん顔しておこう……。


「そうなんですか? ……わかりました。あ、三島さんのサーブだ」


 そう言うと結衣ちゃんは、「三島さん、ナイッサー!」と声を張り上げている。元気だなぁ〜。

 私も、こんな風に応援できたらいいんだけど。慣れてないと、中々声は出せないや。

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