05.担当患者
十一月にリナちゃんが退院していき、十二月も後半に入った。
お正月は入院していた患者の数が減る。一時帰宅出来る人は、正月くらいは家で過ごしたいからだ。
「園田さんも正月は休み?」
中学二年生の白血病患者である、島田
リナちゃんが退院して、代わりに一番の古参となった小児患者さん。今はこうして病院にいるけど、プロを目指すサッカー少年なんだよね。
颯斗くんの担当看護師は私だっていうこともあって、結構親しくなってる。まぁ颯斗くんは、誰とでも仲良くなれちゃう人なんだけど。
同じ病気の子どもたちちやその親、それに拓真くんのことも『拓真兄ちゃん』と呼んで慕ってる。
私は颯斗くんの血圧を測りながら、質問に答えた。
「元旦はね、前日の大晦日から夜勤なんだよね。明けましておめでとうを言いに来るよ」
「そっかぁ、看護師さんって大変だなぁ」
「仕事だからね。でもこの時期患者さんも減るから、ナースの人数も少し減るんだけどね」
「じゃあ、正月に休みを取れる看護師さんも結構いるってこと?」
「うん、いつもの休みよりはね」
「園田さんは貧乏クジ引いちゃったわけだ」
「んー、家庭持ってる人が優先かな、なんて思っちゃって。まぁ私は一人暮らしだし、家にいてもどうせ一人だからねー」
別に、貧乏クジとは思ってない。
両親は同じ鳥白市内にいるから、会いに行こうと思えばいつでもいけるし、遠くの実家に帰らなきゃいけない人の方が大変だから、譲るのは当然かな。
まぁ夜勤明けの
そんなことを考えていると、颯斗くんは「彼氏とかいないのかよ」と聞いてきた。
もう、この子は……自分は中学生のくせに彼女がいるからって!
「ちょっとそれ聞くー? いたらなにがなんでも休みを取ってるよ!」
彼氏いない歴イコール年齢だなんて、口が裂けても言わないからね!
「彼氏いなかったのか。意外だなぁ」
「出会いがないのよ、出会いが……」
なんて言い訳。出会いがあっても、なんにもできない私なんだけど。
「職場恋愛とかダメなのか? 小林先生とか仲本さんって独身じゃなかったっけ」
「小林先生は医者としては優秀でも、彼氏となるとちょっとねぇ……」
小児科医の小林先生は……いい人で意外に面白いんだけど、私の好みには当てはまらないかな。
「仲本さんは?」
「私はイケメン無理だから!」
今度は同期看護師の仲本くんの名前を出されたけど、ああいう王子様系のキラキラしたイケメンって、どうにも苦手なんだよね。
「じゃあ、どんな人がタイプなんだ?」
な、なんでそれを聞くの!?
も、もしかして……バレちゃってたりする?? 颯斗くんって、すごい勘がよさそうだし。
誰かにバラされるより、いっその事教えて口止めした方がいいのかも……。
「だ、誰にも言わないでよ?」
「言わない言わない」
「い、言っとくけど、タイプってだけだからね! 好きとかじゃないから!」
「うん、誰?」
「うーっ」
どうしよう。誰にも言ったことないし、言った後の反応が怖い……。
高校生が相手なんて犯罪じゃん、とか言われたらどうしよう。
「け、軽蔑しないでよ?」
「う、うん。なんで軽蔑?」
「別に、付き合いたいとか、思ってないんだからね」
「わかったわかった」
颯斗くんはちょっと呆れるようにそう言ってる。
ああ、嘘ついてるのバレてる気がする。本当は……付き合えるなら、めちゃくちゃ付き合いたいよー。
「ちょっとだけ、いいかなってだけだからね」
「うんうん、わかったって。誰?」
うう、ここまで来てしまったら、もう言うしかなくなる……っ
私は覚悟を決めて、でも颯斗くんとは目を合わせずに伝えた。
「えっとね……リナちゃんの、お兄ちゃん……」
「えっ、拓真兄ちゃん!?」
声が大きいよ、颯斗くん!!
心の中でギャーと叫びながら、人差し指を口に当てて静かにを訴えた。
だ、誰にも聞かれてない……よね!? もうっ。
「え、マジで、拓真兄ちゃんなのか?」
「だ、だから、タイプだからねっ」
「拓真兄ちゃん、かっこいいじゃん。イケメン駄目だったんじゃなかったのかよ」
「え、拓真くんってイケメンなの? 違うんじゃない?」
拓真くんはイケメンだったのかな。
年の割に老けて見えるし、体も大きくてゴツくて、あんまり今時の子って感じがしないんだけど。
「じゃあ、拓真兄ちゃんのどこがタイプなんだ?」
「そりゃあ背が高くて体も鍛えてて、妹には優しいし、私達看護師にも気を遣ってくれるし……」
「好きなんだな」
「うん……」
……あ。
言っちゃったよ!! なにその誘導尋問!! 中学生のくせにぃ〜〜っ!
「ちょ、なに言わすのっ! だから、ああいう人がタイプなだけだってば!」
「拓真兄ちゃん、彼女いないみたいだけど?」
「え、本当? ……って、違うんだからっ! 第一、相手は高校生じゃないのっ」
「別にいいと思うけどなぁ。この春で高校卒業だし」
「いいと思う? 変に思われない?」
もしかしたら犯罪って言われることも覚悟してたから、颯斗くんの言葉に驚いてしまった。
い、今時の子は……考え方まで進んでるんだね……びっくり。
「なんだよ、やっぱ好きなんじゃん! 電話してやろうか」
「きゃーー、やめてやめて!」
颯斗くんの顔がニヤニヤしてる。もう、絶対楽しんでるでしょー!!
あわあわしていると、颯斗くんは携帯を手にとって、誰かに電話を掛けてる。嘘でしょ、本当に!? 拓真くんに電話しちゃうの!? やめてーっ!
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