04.もう会えない

 犯人捜しはされずに済んだけど……。

 それからも、特に進展はなかった。

 だって拓真くんは週末にしかリナちゃんのお見舞いに来られないし、その時にちょうど出会えるわけでもない。

 会えたとしても、挨拶を交わすくらいが関の山だった。

 だって仕事中に携帯の番号なんて聞けないじゃないのよーっ! どうしろっていうの……。


 そして、とうとうその日は来てしまった。


「リナちゃん、退院おめでとうーー!!」


 看護師や主治医の先生も集まって、ナースステーションでリナちゃんの退院を祝う。

 リナちゃんが元気になってくれて、本当に本当によかった。……よかったんだけど。


「先生、看護師のみなさんも、ありがとうございました!!」


 荷物持ちに来ていた拓真くんが、来た時と同じように礼儀正しくお辞儀してくれている。

 もう、今日で……拓真くんを見るのはおしまいになるだろうな。

 リナちゃんの通院に拓真くんがついてくることはないだろうし、もし来たとしても外来だから、私と会うことは絶対ない。

 リナちゃんの退院は嬉しいのに……なんだか泣けてくる。


「みんな、ありがとお!」


 リナちゃんの弾けんばかりの笑顔は、私たちのあと、拓真くんの方に向けられた。二人は顔を見合わせてニコニコ笑い合ってる。

 この兄妹は、すごく仲いいんだよね。微笑ましい。


「皆様には本当にお世話になりました。これ、入院期間中に撮らせてもらった写真です。よろしければ貰ってください」


 そう言って、リナちゃんのお母さんの池畑さんが、医師と看護師一人一人に封筒を渡してくれた。

 私が受け取った封筒の『そのださん』という文字は、きっとリナちゃんが書いたんだろう。

 今勤務している病院では、基本的に患者様やそのご家族から、物を受け取ってはいけないことになっている。たまに差し入れだとケーキを持ってきてくださる方もいるけど、心苦しくても断らなきゃいけない。

 でもこういう写真や手紙なんかは、有り難くいただくようにしている。

 私たちは喜んでそれを受け取り、池畑さんたち家族を見送った。

 長期間入院していた子が、退院する瞬間はいい。頑張ったのはリナちゃんたちだけど、私たち看護師もやり遂げた達成感のようなものがある。

 でも今回だけは……達成感は薄かったけど。

 やっぱり電話番号……聞いておくんだった……。


 拓真くん達が小児病棟を出て行ったあと、みんなはガサゴソと封筒を開けている。私もみんなに倣うようにそれを開封した。

 私への写真は二枚だけだった。私がリナちゃんの血圧を測っているところ。それと、リナちゃんと池畑さんと、私と丸木田さんの四人で写っているもの。セルフタイマーで撮ったやつだ。


「園田はどんな写真?」

「よしちゃんも見せてー」


 後ろから覗き込んできたよしちゃんに私の写真を見せると、よしちゃんも自分のを見せてくれた。


「わ、よしちゃんの写真多い! 十枚以上あ……る……」


 よしちゃんが貰った写真を見て、私は固まってしまった。

 だって、拓真くんも写ってるし!!

 何それズルイ!! いつの間に撮ったの!?

 私も拓真くんの写真が欲しかったー!!


「どしたの、園田」

「えと、あ、うん、いっぱいあっていいね」

「小児患者の親って、結構ナースと写真を撮りたがるんだよね。でも遠慮してる時があるから、私の方から撮ってもいいよって声掛けてあげるんだ。みんな喜ぶよ」

「あ、そ、そうなんだ……」


 そういうこと、早く教えてよー!!

 そしたら、私にも拓真くんの写真が……はあぁぁああ。

 でも、そこまで配慮できなかった私自身のせいだから、どうしようもない。

 拓真くんの写真はないけど、リナちゃんや池畑さんと一緒の写真があってよかった。それを貰えたことが、やっぱりすごく嬉しい。


 もう拓真くんとは会えないけど……。

 いつか、こんなこともあったなって思える日が来るのかな。


 まだしばらくは、落ち込んじゃいそうだけど。

 もう諦めなきゃ……ね……。

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