第2話 理子
「暢子も変わった趣味だよね」
理子のきつい一言。たまに学校で一緒にお茶を飲む機会でもあると、毎度、説教されているかのように暢子に絡んでくる。
「趣味。何が…」
解っていても一通り洗礼を受けるために答えるしか無い。
「裸婦モデル〜」
またそれか、と思って顔が歪むけど、理子を説得するだけの言葉が見つからない。
「ええ、それは聞き捨てならない。仕事、仕事って割り切ってやってるんだから」
暢子は仕方無しにおどけてそう言う。
「だって色んな人に裸、見せるわけでしょ、やりたがるかな普通〜」
『裸を見せる』そういう次元で話されると身も蓋もない。
「普通はどうだか判らないけど…わたし…自慢じゃないけど体には自身があるんだ」
それは事実で、自分でも綺麗だと思っていた。あとはこれと言って自慢するものはない。
「それで女らしかったらモテるんだろうけど…色気がないんだよね色気が…」
「どういたしまして」
色気なら理子に完全に負けている。
「なんで?」
こういう時の理子は酒が入っているかのように絡む。
「さあ、いつかそういう時も来るんじゃないの。そういう人に会えば。今は周りに意中の人も居ないし、体鍛えてこの体型キープして、この仕事に打ち込んでるわけよ」
と言うしか無かった。少々負け惜しみには違いないが、理解してもらえないことにももう慣れていた。
「いいね。呑気で…」
そういうさっきからの理子のつっけんどんな言い方が、さすがの暢子にも気にかかった。
「理子何かあった?なんか今日やけに突っかかるね。
冷静に考えてみれば、いくらモデルに反対している理子でも此処まで突っかかった事はなかった。
「私…恋してるの…かな」
理子の意外な発言に暢子も驚いた。
「誰に?」
「山崎教授。先生独身って知ってた?」
山崎教授の顔を浮かべたがピンと来ない。でも、理子の身近にいる山崎と言えば、
「大学の〜油の〜なんで?恋って…」
「奥さんいないのよ。見てるとなんとかしてあげたくなるの」
男勝りの理子がそんなしおらしいことを言うなんて…焦る。女同士の友情も最早これまでかと、少々嫉妬も感じる。
「いくつ、山崎いくつよ!」
理子の急な発言に動揺して今度は暢子がむきになる。
「40よ。いいよね。落ち着いてて」
「落ち着き過ぎてるわよ。40で独身なんて…何処が良いのよ。40の!20も違うのよ。結婚してないとしても女はいるわよ。理子が知ら無いだけでしょ」
そういう暢子に理子も黙っちゃいない。
「女…失礼な、あんたに私の気持ちなんてわからないよ、永遠に…」
「そんなのわからなくていいよ、もう…」
と呆れながら、もうこれ以上理子の片思いの話に付き合って入れられないと腰を浮かして遠慮気味にバックに手をかける。暢子には次の予定が待っている。
とすかさず、勘の良い理子が…
「何?また急いでるの」
と、聞いた。
「ん、バイト…その後ちょっと教授に呼ばれてるの」
「また、違うところ?」
「うん、今日から大学の教室。一年生が裸婦デッサンするんだって」
身を削る仕事にケチを付けられてはたまらない。
「あんた、学校の中までやるの」
ほおら来た。負けると判っていてもたまには応戦してみたい。
「理子さんそんな言い方するけどね。誰もやる人居なかったら裸婦デッサンできないでしょうが。私の仕事は芸術には不可欠なんだよ。まったく〜今度山崎にも宣伝しとこうかな。私の麗しのボディーを」
ちょっと艶めかしいポーズを付けて理子を挑発する。
「怒るよ。そんな事したら。もう金輪際!カラオケ一緒に行ってやらないから」
思いもよらない変化球が来た。
「え!それは困るな…山崎だけはやめとくよ」
情けないけど理子に遊んでもらえなくなったら暢子の人生は半分闇になってしまう。潔く降参して理子に詫びを入れた。
「もう、早く行きな。遅れるよ」
「はい。はーい」
まったく理子の不機嫌に付き合うのは骨が折れるわ…
ようやく無罪放免となって理子から開放された暢子は、小走りに教室へ向かう。
暢子の裸婦デッサンの仕事を理子は仕事と思ってくれていない。難しいことを言う気はないが、それ程ポリシーが無いわけでもなかった。
「まったく絶対露出狂だね。あいつ」
暢子の居なくなった向かい側の席をいまいましく眺めながら理子がつぶやいた。
「理子!時間ある。ちょっと聞いて欲しい事があるんだ」
暢子の居なくなった席に座って理子にそういったのは建築工学科の吉野だった。
「どうしたの吉野?」
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