第19話 あたしが協力してあげようか?
翌日の2時間目は体育で、内容はグラウンドでのサッカーだった。
男女に分かれて行うが、準備体操だけは合同。
うちの高校では体育係が男女1名ずついて、その二人が準備体操の先導をする。
準備・片付けの手伝いをするのも、体育係の役目だ。
ただ、今日は係の内男子の方だけが休み。
するとなぜか体育教師の小島が、「じゃあ、学級委員! 今日は代打やってくれ!」と突然俺を指名してきたので、雑用が増えてしまった。
しかも、もう一人の体育係は里見だ。
散々山本に煩わされた昨日の今日で、里見と一緒に仕事しなきゃならないなんて、何の罰ゲームだよマジで。
まあでも、準備体操は大したことなかった。
前に出て声を出していればそれで終わり。まもなくサッカーに移る。
上手いやつの足だけは引っ張らないようにすれば、サッカーもそこそこ面白い。
適当にボールを蹴っていると時間が来て、程よく汗を流して授業は終わり、と思いきや――。
「じゃあ、体育委員……と相澤! コーンの片付け頼む!」
小島のひと声で、俺は里見と片付けをすることになってしまった。
里見と顔を見合わせる。
やつはげんなりした顔をしていた。多分俺も、同じ顔をしてたと思う。
里見と一緒にコーンを運び、グラウンド隅の体育倉庫に足を踏み入れる。
コーンを中に入れる途中、里見と偶然目が合った。
里見はなぜか焦った様子で言う。
「な、何よ。言っとくけど、あたしあれから水谷にはちょっかい出してないから」
「……知ってるよ、それくらい」
俺はため息をついた。
この間釘を刺したのが、思いの外彼女には効いたみたいだ。
こいつは山本に比べるとだいぶ小物……じゃなくて、物分かりが良い。
山本の方も、何か弱みを握りさえすればいけるんだろうけど。
「そんなことより、里見は山本をなんとかしてくれよ。お前だって、あいつが水谷にあれだけしつこくいくのはムカつくだろ」
「あたしになんとかできるなら、とっくにしてるっつーの」
里見は吐き捨てるように言ってから、ビシッと俺を指差す。
「つーか相澤こそ、なんとかしなさいよ。あんた一応、水谷の彼氏なんでしょ。全然役に立ってないじゃない、情けない」
「なっ……」
危ない、思わず殴るところだった。
人を殴ったことなんてないけど。
でもまあ、俺の水谷との関係がフェイクだなんて、里見が知るはずもない。
客観的に現状を見れば、彼女に寄り付く虫を排除できない残念な彼氏というのが、俺の評価になるのだろう。水谷と付き合っているという、嫉妬も込みで。
山本の評価はもっと下がってそうだけど。
あいつの場合、そういうの気にしなさそうだからなあ。
怒りをぐっと堪え、俺は尋ねた。
「なあ、里見。なんで水谷は俺と付き合ってるのに、山本は諦めないんだ?」
「……はあ? あんた何言ってんの?」
里見は俺の顔をまじまじと見つめた後、呆れたように首を振る。
「そりゃ、相澤が頼りないからに決まってんでしょ。芋っぽいし。これがB組の池野あたりなら、剛も諦めたんでしょうけど」
「……なるほど。つまり、俺のスペックのせいってことか?」
確かに俺は特別イケメンではないし、運動神経も普通。
勉強はそこそこだけど、そもそもこの高校では定期試験で成績上位者が張り出されないから、そんなの誰にも知られていない。
結局みんなそういうわかりやすいスペックで釣り合ってるかどうかを判定するわけで、そういう意味で俺は水谷に「釣り合ってない」ということなのだろう。だから山本は、まだ可能性があると踏んでいる、と。
里見は頷いた。
「まあ、そういうことね。私が剛でも、あんたが狙ってる子の彼氏なら『いけんじゃね?』って思いそうだし」
「……お前ら揃ってクソだな。ほんとお似合いだよ」
「そうは言うけど、相澤だって人を見た目で判断したりするでしょ?」
「まさか、俺はそんなこと――」
「いいえ、相澤も例外じゃないわ。じゃあ聞くけど、あんた私と初対面の時、本当に何も思わなかった?」
「ああ、もちろ……」
言いかけて、ふと気付く。
そう言えば俺は……最初に係決めで里見が手を挙げているのを見た時、見た目で勝手に相手の性格まで想像してた気がする。
「ほら、やっぱり見た目で判断してるじゃない」
黙った俺を見て、里見はため息をついた。
コーンを運びながら続ける。
「あたしは別に、相澤を責めてるわけじゃないわ。人には目がついてる以上、見た目の第一印象から相手を判断するのは絶対に避けられない。だからあんたはあたしを苦手だと最初から思ってたし、あたしも同じことを思った」
「……」
へえ、同じことを思ってたのか。
気が合うじゃないか、ちょっと付き合ってみない?
という冗談は置いておくとして――。
案外里見も、いろいろ考えてるんだな。
俺は彼女に対する認識を、少し改めるべきかもしれない。
もちろん、里見は水谷に嫌がらせしてたわけで、嫌なやつなのは間違いないが。
それともう一つ。
ふと今思い出したけど、この間山本が里見と土手で口論してた時、
「あいつにふさわしい男が、この学校で俺をおいて他にいるか?」
みたいなことを山本が言ってた気がする。
つまり、里見の言う「スペックで判断して、いけると思ってる説」は、割と真実に近いのかもしれない。
「あ、そうだ相澤。あたしが協力してあげようか?」
「……急に何だよ」
びっくりして里見の顔を見つめると、里見はいたずらっぽい笑顔を見せた。
「要はあんたのスペックを上げれば、剛もあの泥棒猫に寄り付かなくなるかもしれないでしょ? だから、それに協力してあげるって言ってんの。成功すれば、あたしにとってもメリットあるし、お互いウィンウィンじゃん」
「……そりゃ嬉しいけど、そもそもどうやってスペックを上げるんだよ」
32ギガから64ギガに上げるとか、そういう話?
里見は分かってないなあ、という風に肩をすくめた。ウザい。
「あのねえ、ここまでの話の流れで分からない? どう考えても、まずは見た目からでしょ。てなわけで……とりあえず、週末空いてる?」
「……は?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます