第97話 丸舘市刃物男事件③
パパパパパパパ―――――――ァ!
緒方巡査が運転する軽トラがクラクションを鳴らしながらルンとハヌーを乗せて店内に突入してきた!
「キューーーーーーー!!!!」
なんとハヌーが男の顔面に飛び掛かった!
男がひるんだすきにオレは体勢を立て直すことが出来た。
「晴兄ちゃん! 大丈夫?!」
そしてルンの叫び声。
軽トラは立ち並ぶ売り場の棚等に遮られ、大きな通路までしか入ってこれない。
なので、今現在刃物男と対峙しているオレの位置からは10mは離れている。
「ここまでしか入れません! 撥ね飛ばそうと思ったんですが!」
おいおい、緒方巡査よ。衆人環視のなかでそれはやっちゃまずいだろう。
仮にもボクたちお巡りさんなんだからさ。
そこで、ふと気づくとオレの体の周りを銀色っぽいキラキラしたものが取り囲んだ。
「晴兄ちゃん!
おお、これが身体強化魔法というものか。
いつもよりも力がみなぎっている感じがしてくるのは気のせいではないのだろう。
そして、認識疎外の効果か、男はオレの姿を見失っているようなそぶりを見せている。真正面にいるんだけどな。
その後、男の周囲に紫っぽい光がまとわりつくも、何かにはじかれたように霧散する。
「あれっ?!
なぬ? せっかくバフをもらって張り切っていたのに、すでに向こうにも魔法効果が掛かっているだと?
だが躊躇している場合ではない。
男がオレの姿を見失っているうちに仕掛ける!
オレは刃物を持っている男の手首を両手でつかんだ!
オレが動いたことで男はオレの存在を完全に感知する!
ここで互いに力比べのような様相になり、オレは男の手から刃物を手放させるべく掴んだ手首を左右に振り動かす。
だが、男はその風貌からは想像もできないような力でオレの動きに対抗する。
って、なんか男の体が肥大してきていないか?
さっきまでは貧相な小汚い浮浪者のような酔っぱらいでそれに見合った表情をしていたのに、今は、目は怪しく光って
腕周りや太もも周りも明らかに筋肉がついて肥大してきており、もはや尋常ではない事態になっている。
だが、ルンからのバフをもらったオレの方が若干ながら力が上だったようだ。
男の手首を思いっきり、手首の可動域を越えて外巻きに捻る事で俗にいう『手首を
よし、いまだ!
男の右手首を左手で極めたまま手前に引っ張り、右手で男の襟をつかむ。
腰を起点に身体を回転させ、相手の重心を腰の上にのせて――跳ね上げる!
一本背負い!
見事、男を投げ飛ばすことに成功し、そのまま床に拘束。
抵抗して体をよじる男を何とか抑えながら、どうにか両手首に手錠をかける。
そこで、駆け寄ってきた緒方巡査からもう一つ手錠を受け取り、暴れもがいていた両足の足首にもかけてほぼ完全に拘束を終える。
その瞬間。
男の体をまとっていた黒い靄が男の体から離れ、空中に浮かび上がるとまるで浄化されて空気に溶けていくように霧散していく。
そして、腰に付けていた署内系の無線機から、いつかどこかで聞いたような声が聞こえてきた。
「よおっしゃー! 地球の闇をひとつ祓ったわね! この調子で頑張ってねー!」
◇ ◇ ◇ ◇
その後の取り調べで、男は生活保護受給のアル中で近所では有名な迷惑男だったそうだ。
普段も酔っぱらって店に来ては酒を買い、なにやらいちゃもんを付けていくわ、体臭はひどいわで店側でも迷惑していたらしい。
その日も酒を買いに来ており、所持金がないがツケで売ってくれと要求し、断られたところ突然激昂して刃物を取り出したとのこと。
で、その刃物が、到底男の所持金で買えるような代物ではなく、なにやら米軍の標記も入った厚刃のサバイバルナイフ。
出所が不可解でありさらなる聴取を進めると、スーツを着た男から新発売のワンカップ酒をサンプルだと言われてもらったときに一緒に手渡されたんだとか。
男曰く、そのサンプルの酒を飲んだとたんに気持ちが大きくなりさらに酒が飲みたくなりお店に行って酒を無心し、その後は記憶がないという。
サンプルの酒が怪しいとなり、男の体を調べたところ何らかの薬物反応があったが薬物の種類までは特定できず。
現在、その謎のスーツの男の行方を刑事課の方で追っている所である。
「はあ、恩田課長、病院の横領事件も追ってた最中に事件が重なって大変だろうなー」
「でも、刑事課って、そういうところじゃないですか」
「今更だけど、警察ってブラックの最たる職場だよなー」
「ですよねー」
「そのうちルンの感知能力使って市内ローラー作戦かけてくれって依頼きそうだよな。
「
「その時は私が運転します! ルンちゃんとドライブです!」
「おお、頑張ってくれ。お、出前きたぞー」
「「はーい」」
田舎には珍しい大きな事件が発生したけれど、駐在所はどうやら今日も平和なようです。
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