第95話 丸舘市刃物男事件①

「武藤巡査長」


「どうした、緒方巡査。」



「最近、わたしのパンツが安売りされている気がしませんか?」


「……? ネットオークションにでも出したのか?」



「違います! ずいぶんと気軽にわたしのパンツが見られてしまうって話です!」


「いや、たしかに最近よく目にするとは思うがゲフンゲフン。でも全部事故みたいなものだから仕方がないのでは?」



「確かに事故なんですけどー! このままじゃラッキーパンツっ娘の異名を勝ち取りそうで嫌なんです!」


「いや、なら対策よ。白だけにいっつも白いパンツ。」



「あー上手いこと言ったつもりなんでしょうけどそれってセクハラですよー!」


「晴兄ちゃんも志穂姉ちゃんも仲いいねー」


「キュー」





「なんというか、男のオレが言うのもなんだがおパンツの上にスパッツ履くとかすればいいのに」


「その手がありましたか!」



「いや、だってあなた警察官でしょ? 犯人と格闘するときにスカートなんか捲れ放題になってしまうんじゃないの? だったら職務上自衛は必要だと思うのだが?」


「むう、ぐうの音も出ないですぅ」


「志穂姉ちゃん? 悪者と格闘したことあるの?」



「そういやルンは冒険者だったんだな。精神操作系の魔法使いだったんだよな? じゃあポジションは後衛か?」


「うん、後衛で魔物に忘却とか睡眠とかのデバフかけたり、お兄ちゃん達には認識疎外とかのバフかけたりしてたよ。あ、ランス姉と一緒に杖でぶっ叩いたりもしてたなー」


「「「物理魔法少女……(キューハヌーの鳴き声)」」」



「晴兄ちゃんとか志穂姉ちゃんは、けーさつがっこー? ってとこで格闘術とか習ったの?」


「ええ、逮捕術とか柔剣道とかね。まあ、さっきのルンちゃんの質問に答えるとすれば、悪者と格闘したことはないわね。だって、こんな田舎にそうそう悪者なんていないわよ」


「おいおい……その言動は――」




『――ピリリリリリリリリリ―――――― 晴田本部から丸舘捜査! 丸舘地域!』



 ほーら警告音からの本部無線だ。やっぱりフラグになったか……。



『――丸舘捜査です! どうぞ!』


 無線に出たのは恩田課長だな。



『丸舘市うとくショッピングセンター内にて男が刃物を持って叫んでいるとの通報! 現場に急行されたし! どうぞ!』


 って、大事件じゃねえか!



『――丸舘捜査了解! 管内各車、各移動、現場急行せよ! どうぞ!』



「ルン! 赤色灯とサイレンだ! 急行するぞ!」


「はい! 晴兄ちゃん!」



 ルンはすっかり慣れた手つきで軽トラの助手席窓から手を出し、天井に赤色灯を設置して、普通車ならカーラジオがあるダッシュボードの場所を操作してサイレンを吹鳴させる。


 その様子を見ながらオレも無線機を左手にとり、送話ボタンを押す。


『――上中岡移動、無線傍受了解。これより現場急行、どうぞ!』


『――晴田本部了解!』


『――丸舘捜査了解! ルンちゃん気をつけてな!』



 おいおい、恩田課長。全県に聞こえる無線でそんなこと言うなよ!



「武藤巡査長! まずいです!」


「どうした!」



「わたし、スパッツ履いてません!」


「それがどうした!」



「だって、こんな大事件、テレビ局とかも来ますよね?! もし犯人と格闘になってわたしのおパンツがさらけ出されたりしたら、全県、いや、全国にわたしのパンツが放映されちゃうんですよ!?」


「モザイクかかるから大丈夫だ!」


「キュー?!」




◇ ◇ ◇ ◇



『――上中岡移動から晴田本部、丸舘捜査。現着現場到着どうぞ!』


『――晴田本部了解!』


『――丸舘捜査了解!』




 さて、このショッピングセンターは丸舘市でも老舗と言われる3階建ての複合ショッピングモールだ。


 完成当時は田舎にしてはそれなりにこじゃれた建物で丸舘市民憩いの場であり、中学生や高校生がデートをするとなればこの建物一択だった時代もあったそうだ。


 当時からあったゲームコーナーは丸舘市の不良(笑)のたまり場であり、少年係はよくそこで補導をしたものだと美魔女の川原補導員が話していたこともある。


 ちなみに丸舘市で初となるフランチャイズのファストフード店、ラッテリアがオープンしたのもこのデパートの敷地内である。そこは現在、ロックド鳴門を経て紳士ドーナツの店舗へと代替わりをしているが。


 

 で、そんな犯行現場の老舗のデパートに一番最初に到着したのがオレたちらしい。


 正面入り口側の駐車場内、少し開けたところに赤色灯を回したままの軽トラを停止させる。なお、サイレンは犯人が刺激されると困るので音は止めてある。

 



 見ると、デパートの入り口からは、吐き出されるようにして逃げ出す客が次々と走り出てきている。



 これは不味いな、パニック寸前だ。


 このままでは2次災害で負傷者や死亡案件の可能性もある。


「緒方巡査! 正面入り口に行って避難誘導! ルン! 軽トラの脇に立って避難場所の目印になれ!」


「「はい!」」



「オレは犯人と対峙してくる!」


「「お気をつけて(キュー)!」」





「あちらに避難してくださーい! 走らず、歩いて、しっかり避難してくださーい!」


 緒方巡査が正面入り口付近で誘導に入る。



「ひとまずこちらへ避難お願いしまーす!」


 ルンが両手を上げて避難場所をわかりやすくしている。



 無事避難誘導が始まったことを見届けたオレは、避難する客の流れに逆らい、店の中にいる犯人の方へと向かっていった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る