第94話 丸舘警察署緊急幹部会議。
時は数日遡り。
ハヌーが軽トラに撥ねられてから駐在所に保護され、ルンから恩田課長に相談を持ち掛けたその日の夕方。
「署長! 緊急事態! 重要案件です!」
「どうしたんだ恩田課長、まずは落ち着きたまえ」
「これが落ち着いてなどいられますか! ……とうとう、」
「とうとう?」
「とうとう現れたのです! あの、今生では出会うことはないと思われた、あの存在が!」
「なんだと?!」
「ことは一刻を争います! 至急、幹部会議を招集してください!」
「うむ! わかった! 副署長! 至急課長たちを招集してくれ!」
「了解!」
◇ ◇ ◇ ◇
そして10分もしないうちに丸舘警察署各課の課長は招集され、署長室に集合していた。
「揃ったようだな。では恩田君、始めてくれ」
「わかりました。」
恩田課長は署長室の大画面テレビを操作し、資料映像を流し始める。
会議のメンバーはその画面に映し出される資料映像を、瞬きの間すら惜しんで集中して凝視していた。
「……ということで、お判りいただけただろうか」
資料映像の再生が終わり、真っ暗な画面になったテレビを背に恩田課長がそのまま会議の進行役を続けている。
「うむ、理解した。で、刑事課長。今この映像を私たちに見せたという事は……そういう理解でいのですか?」
「なんだと……まさか……あれが現実になるだと……」
「信じられん。だが、そういう事なんだな」
地域課長と交通課長、そして会計課長が吐息交じりに感想を述べる。警務課長と警備課長は腕組みをしたまま瞑目している。
必死にメモを取っている副署長の隣に座っていた署長がおもむろに立ち上がり、こう言い放つ。
「そうだ! とうとうこの日が来たのだ! 魔法少女と言えば小さくて不思議な生き物のマスコットが必要不可欠! 我が署の魔法少女、ルンちゃんのもとにマスコットキャラが現れたのだ!!」
「「「「「おおおおおおおおおおお!!!」」」」」
ちなみに、先ほどまで流れていた資料映像は、『異世界魔法少女アマエミちゃん』の第2クール第2話目、妖精界からの使者であり、アマエミちゃんの心強いパートナー、マスコットの『シナッピ』の登場回である。
「これでルンちゃんの可愛さパワーアップ! 魔法少女としてのパーツが揃ったぞ!」
「「「「「おおおおおおおお!!!!!」」」」」
「さて、問題はこの後だ! いかにしてこのマスコットちゃんとルンちゃんのコンビを維持継続していくかが今回の会議の重要議題だ!」
「「「「「おお!」」」」」
「で、そのマスコットはタヌキなのか?」
「会計課長よ、お言葉に気を付けてくれたまえ。彼女はすでにタヌキではない。『ハヌー』という、それ以上でも以下でもない、れっきとした一個の存在なのだ。単にベースがタヌキだっただけの事。」
「うむ、理解した。」
「まて、彼女といったが、ハヌーちゃんはメスで確定なのか?」
「うむ、そこも懸念が残る。なにしろ、魔法少女界隈の他の世界線では女の子属性にしか見えないマスコットキャラがいきなりタキシードイケメンに変化する場合もあるからな。」
「な……! もしそんな事態になったら! ルンちゃんの隣にイケメン男が侍ってしまうことになるではないか! 悪い虫がついてしまうことになる!」
「男ならすでに武藤巡査長もそばにいるが?」
「大丈夫だ、奴は虫以下だ。」
「うむ、話を進めるぞ。ハヌーちゃんが女性枠だった場合はあまり問題がない。しかし、もしも男性枠になってしまった場合には、速やかにルンちゃんのそばから遠ざける必要がある。」
「ならば、人事権? マスコット事権? を我が署で掌握する方向が望ましいな。」
「ならば、警察組織に組み込む方向か……。何か良い手は……?」
「ならば……元の姿がタヌキなことを活用するか……」
「そのこころは?」
「うむ、警察には警察犬という存在があるだろう?」
「はっ! もしかして!」
「そうだ、ハヌーちゃんを警察犬枠で上中岡駐在所に配属する! それならば、もし
「「「「「天才か!!」」」」」
「だが、それには本部長決裁が必要だ! 警察犬の上級嘱託検定も受けてもらわねばならんからな!」
「ならば、急遽上級検定の開催もセットで直訴だな! 恩田君! 署長車の準備だ!」
「了解です!」
――こうして、ハヌーは見事上中岡駐在所の配属となったのであった……
◇ ◇ ◇ ◇
「キュー?」
「ん? なんかオレのあずかり知らぬところでとてつもなくディスられたような気がするぞ‥‥…?」
「そんなのいつものことじゃないですかー」
「晴兄ちゃん、志穂姉ちゃん、わたしお昼はソースかつ丼がいいな!」
「よし、なかおか屋に電話するか」
「キュー」
ちなみに、ハヌーが知性を持った原因はドクダミー君と同じくルンの乗った軽トラで撥ねられたことによって異世界とのパスがつながり、向こうの獣人に近い
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