第93話 恐怖! 警察署のダミー人形!
「武藤さん! ダミー人形が!」
受話器からは、恐怖に塗れた長谷川巡視員の悲痛な叫び声が聞こえてくる。
「もしもし? どうした?」
「ど、ド、ドクダミー君が、動いてるんです!」
「なんだと?!」
「車庫の中の、用具置き場で……! ドクダミー君が入ったケースが、がたがた動いてるんです!」
「……ネズミとかが入ったんじゃないか? そのケース開けてみたらどうだ?」
「いやですよ! 本当にネズミだったらそれも嫌ですし!」
「だったら、早坂とかに開けてもらえばいいんじゃないか?」
「交通事故処理でみんな出払っちゃってるんですよ! 課長はいるんですけど、オカルトはだめだって言うし! それにこの前の交通教室の事とかハヌーちゃんのこと話したら『武藤を呼べ!』の一点張りですし!」
まあ、たしかに昨今の不可思議な出来事に関しては、オレというか軽トラがなにか関係している可能性が高いのは分かるのだが。
それにしても交通課長よ。さんざん
「……わかった。これから向かう。車庫でいいんだな?」
「はい! 早く来てくださいね!」
オレたちは急ぎ本署へと向かった。
◇ ◇ ◇ ◇
「えーと、今は動いてないんだな?」
「はい、さっき武藤さんに電話するまではしきりにガタゴトいってたんですけど……」
「おおルンちゃん! お菓子食べるかい?」
「交通課長、後にしてください」
「なんだよ~、武藤くん。君も食べるかい?」
「あ、私がいただきますね!」
「おお、緒方くん! きみは話しがわかるねえ~」
「話を進めていいですか?」
改めてドクダミー君が入っているケースを見るが、いまのところ何の変哲もない。
オレンジ色のプラスチックケースで、おそらくこの中にはドクダミー君が手足を折りたたまれて詰め込まれているはずだ。
「開けてみるぞ……?」
オレはおもむろにケースの蓋を開けてみた!
がちゃっ
「……何ともないぞ?」
「いやーーーー! 違う! 動いてるわ!」
突如、長谷川巡視員が悲鳴のような声を上げる。
「わたしは、あの時ちゃんときっちり足も腕もきれいに折りたたんで仕舞ったんです! でも、まるでケースの中で動いたみたいに乱雑になってます! やっぱりこの子動いてます!」
カタカタカタカタ
「ひっ!」
カタカタカタカタ
突如、ドクダミー君の入ったプラスチックケースから振動音が聞こえてくる!
ガガッ ピー ガガガガ
そして、オレの装備している署内系無線機からスケルチ音が聞こえてくる!
ガガッ ピー ガガガガ
カタカタカタカタ
そして、それらの音は、徐々に大きくなってくる!
『ガガガガガッ――――――……こえる? 聞こえる?』
無線機から女の声が!
それと同時に、ドクダミー君が立ち上がる!
交通課長は気絶した!
長谷川巡視員は気絶した!
緒方巡査は気絶した!
なんと、長谷川巡視員と緒方巡査はひっくり返っておパンツがあらわになっている!
「晴兄ちゃん! 見ちゃダメ!」
「どっちをだ?! 人形か? パンツの方か?」
「パンツの方!」
「いや、いまパンツどころじゃねえだろ!」
「でも見ちゃダメだよ!」
「見てねえよ! いや、視界には入るけども! それよりも、動いた人形と無線機からの謎の声だろうに?!」
「あー。それ? 大丈夫だよ?」
「……はい?」
大丈夫って何が?
「んっとね。
「へ? 魔力?」
「うん、そう。前にセヴル兄たちから電話来た時あったじゃない? あの時と似たような魔力の動きだよ?」
「いや、そんな当たり前のように言われてもだな……」
『ガガガガガッ――――――……っとー! ちょっと? 聞こえる?』
無線機からは謎の女の声。
「えっと、この無線機の声も魔力なのかな?」
「うん、人形さんと同じ魔力だよ?」
『ガガッ――ねえねえ、聞こえてるー?』
◇ ◇ ◇ ◇
――結局、無線機から聞こえてきた声の主の話によれば。
ルンが乗った状態の軽トラでドクダミー君を撥ねたことにより、異世界との
あ、無線の声の主は『クウちゃん』って名乗っていた。
この前、オレの携帯に異世界の佐藤真治さんから電話がかかってきた時の、前の夜に神託みたいな夢を見せた神様みたいな人の部下らしい。
なんというか、あまり関わり合いになりたくないような感じの人だったな。
だって、自分のことを『時空の女神』とか言っちゃてたし。
いくら神に近い存在でも食い気味に自分のことを女神とか言うのはどうかと思うんだ。
で、そのクウちゃんって人は、なにやら思うところがあって、ドクダミー君を遠隔操作したかったらしいんだ。
ドクダミー君には発声装置はついてないから、発声は無線機を使ったらしい。
あ、無線機はとっくの昔にクウちゃんは周波数の同調済ませてたんだって。それでいいのか警察装備。
その日から、ドクダミー君はクウちゃんの
この出来事はネタが割れるとホラーでもなんでもなくなり、「まあ、異世界とかダンジョンとかもあるしね」といった感じで軽く扱われ、廊下を歩くドクダミー君を見ても署員は驚くでもなく、むしろ気軽に挨拶までする始末。
そして数日経過し、「よし! これで完璧ね!」と無線機に言い残してクウちゃんはドクダミー君の支配権を手放した。
その後ドクダミー君は動かなくなり、署内には何かさみし気な雰囲気も漂ったが、無線機に向かって「ドクダミー君~、あ~そ~ぼ~!」と言うとたまに再起動してくれたので、交通課長なんかは孤独をいやすためにすっかりドクダミー君を遊び相手として扱っていたとか。
◇ ◇ ◇ ◇
クウちゃん「え? わたし? あれ以降は
ルン「え……、じゃあ、あのドクダミー君を動かしてるのは一体……?」
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