第92話 警察狸。
で、どうしてこうなった……。
先日軽トラで撥ねてしまったタヌキさん。
なぜか仲間になってしまったタヌキさん。
なんと、駐在所への配属が決まってしまった。
しかも肩書までついて。
それが、
――警察
初めて聞いたよ!
確かにこいつは賢いよ?
夜行性で視力は弱いらしいけど、その分嗅覚は優れているっぽいし。
実際に臭いをたどって麻薬を見つける訓練でも成果出したらしいし!
何よりも、人間の言葉理解してるしルンはお話までできるって言うし!
なんか野生のタヌキと違ってアライグマのぬいぐるみっぽくデフォルメされてるし!
でも、違うと思うんだ……。
タヌキは警察の一員になるのは違うと思う。
もしかしてオレの方が間違っているのかと自問した事も1度や2度じゃない。
誰かオレの思いを肯定してくれ。
あ、そういえば、こいつの名前は『ハヌー』に決まった。
え? ハヌマーンなら
違うんだ。
撥ねられたタヌキだからハヌーなんだってさ。
ちなみに名付け親は緒方巡査だ。
オレは反対したのだが、本
そういえば、名前を付けた時になんか首の周りと胸の周りがぴかっと光ったんだよな。
そのあと、そこがやたらともっふもっふして可愛さが爆上りしたんだ。
あんまりにももっふもっふなもんだから、オレもひそかに頬ずりしたり吸ったりしているのは内緒だ。
おっと、話が脱線したな。
いや、わかってるんだ。
こうなった原因、というか、落ち度はオレにもあることを。
あの日、恩田課長への相談役をルンに任せてしまったのは失敗だった。
あのときは、ルンに激甘な恩田課長ならなにかいい落としどころを見つけてくれるんじゃないかって、軽い気持ちだったんだ。
だって、まさか、
ルンの相談したときの言葉がなあ、
「オンダトーチャン! タヌキちゃん仲間にしたいんだけどいいかな?!」
なんて言うなんて予想できるわけないじゃないか。
ちなみに、オレの想定していた文言は、
「タヌキがついてきちゃったんだけれど、どうすればいい?」
だったんだ。
そうすれば、晴田市の小森谷動物園とか、どこかの好事家とかに紹介して引き取ってもらえるかと思ってたんだ。
ところが、ルンはハヌーのことを「仲間」って言っちゃった。
その言葉を最大限に忖度した恩田課長は、駐在所に首輪とかを届けた後に署長らを巻き込んで晴田県警本部の本部長室に特攻をかましたらしいんだ。
そしたら、本部長の鶴の一言で、突然予定に無かった『嘱託警察犬の上級検定』が開催されるし。
その検定の要綱は『警察犬』の『犬』のところにバッテンされて『動物』って書き換えられてるし。
いつのまにか緒方巡査とルンが、軽トラ風呂できれいにしたハヌーを連れて晴田市の検定会場に向かっていたし。
オレ? その日公休だったからゆっくり寝てたら知らないうちに軽トラ使われてて置いてけぼりだったよ。
で、その日の夕方、緒方巡査が帰ってきてこう言ったんだ。
「ハヌー、警察タヌキに合格しましたー! 配属は
って。
誰か、オレの気持ちを察してくれ。
「武藤巡査長? どうしたんですか?」
「いや、一人で追憶しながら黄昏てただけだ。」
「晴兄ちゃん! 見て見て! ハヌーがフルハウス揃えたよ!」
タヌキがトランプしてんじゃねえ!
なんだその手指の器用さは!
「ところで、どうしてハヌ―ちゃんはこんなに頭が良くなっちゃったのかな?」
おおう緒方巡査、一応
「わたしは思うんだけどー、多分、軽トラにぶつかったときかな? 一瞬強い光が軽トラとハヌ―を包んだじゃない? ほら、あの、しょうがっこーのだみいにんぎょう撥ねたときみたいに!」
「……え? 光った?」
「うん、晴兄ちゃん見えなかったの? ハヌーの時もだみいにんぎょうさんのときもぴかーって光ったじゃない。ほんの一瞬だったけど。」
「え? 名前つけた時に光ったのは覚えてるけど……」
「そういえば、あの時の光り方とはちょっと違ってたかな。名づけの時はテイムのソウルリンクって感じだったけど、ぶつかったときは魔力干渉って感じだったもんね?」
「「……はい?」」
なんだろう。今ルンがオレの理解できない言葉をたくさんしゃべったような気がする。
緒方巡査もオレと同じように理解できなかったのかポカンと口を開けていらっしゃる。
待てよ、そういえば思い出した。
小学校での交通安全教室の時、軽トラで撥ねたダミー人形のドクダミー君がやたらと吹っ飛ばされていったんだよな。
そして、ハヌーを撥ねた時も、どこまで飛ばされるんだってくらいの距離を撥ね飛ばされていたんだっけな。
で、ルン曰くどっちの時もぴかーっと光ったと。まあ、オレにはその光は見えなかったが。後で聞いたが緒方巡査にも見えてなかったらしい。
んー、ドクダミー君とハヌー。
軽トラにはねられた以外になんら共通点があるようには思えないのだが……
その時、駐在所の警電のコール音が鳴ったので、オレは受話器を取った。
「武藤さん! ダミー人形が!」
受話器からは、恐怖に塗れた長谷川巡視員の悲痛な叫び声が響き渡ったのだった。
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