第91話 あたらしい仲間?
緊急配備からのひき逃げ班を無事逮捕し、ルンと緒方巡査と3人、和気あいあいと駐在所に戻る途中。
それは、突然起こった。
「危ない!」
なんと、軽トラの進行方向左側から、いきなり何かが飛び出してきたのだ。
オレはとっさに急ブレーキを踏む。
間に合わない!
どぱん
ああ、なんてこった。
よりによって勤務中に、軽トラとはいえパトカー仕様の公用車で何かを撥ねてしまった。
一体何を撥ねたんだ。
オレの視界には茶色いバスケットボール大の毛玉の塊に見えたが。
まさか人間の子供ではないだろう。
撥ね飛ばした動物と思われる物体は、撥ねた位置からはるか前、50mくらいも吹っ飛ばされていた。
さすがに吹っ飛ばされすぎだろうとは思ったが、気が焦っているのでそんなことは後回しだ。
急ブレーキで停止した軽トラから降り、オレは撥ねたであろう動物と思われるモノに駆け寄る。
50mも離れているから少し息が上がる。
そこには
両手両足を広げて腹を見せたタヌキが道路に転がっていた。
「あああ、可愛そうなことをしてしまった……」
法定速度を守っていたとはいえ、軽トラは50㎞/hは出ていただろう。
そのスピードでぶつかったのだ。
タヌキさんは御仏に召されたか、良くても重体だろうと思われた。
だが。
シュタッ!
なんと、タヌキは起き上がった!
「よかった~! 無事だ~!」
オレは尊い命を奪うことがなくて良かったと心から安堵した。
「もう飛びだすんじゃないぞ?」
そう言ってその場を後に、50m後方の軽トラに向けて歩き出す。
軽トラに近づくにつれ、助手席に座っているルンの表情が見えてくる。
その表情は目をむいて驚いている表情であり、視線はオレの少し後ろに向いている。
そして、ルンは右手人差し指を、オレの足元の後ろに向けて指さした。
「なんだ?」
そして振り向いたオレの背後には。
さっき撥ねてしまったタヌキが後ろをついて走ってきているではないか!
「どうしたんだお前!? 走って大丈夫なのか?」
気が動転していたのか、我ながら的外れな質問をしてしまったと思う。
この場合、走っていることについてではなくて、どうして後をついてきたのかという質問をするべきだった。
いや、というか、タヌキに質問する時点でおかしいだろと思考の中でツッコミを繰り返していると、助手席から降りて少しこっちに近づいてきたルンが、
「この子、仲間になりたいんだって!」
……はい?
ルンの言葉を受け、改めて撥ねられたタヌキを見つめる。
しゅたっ
タヌキは右前足を斜め上に上げ、オレに挨拶してくる。
おそらく、先ほどの「走って大丈夫か」という質問への答えなのだろう。
そして、さらに。
タヌキは仲間になりたそうにこちらを見ている!
「……うーん、どうするべきか」
「晴兄ちゃん? 仲間にしてあげないの?」
「仲間って言葉の定義の中にはな、通常タヌキは含まれていないんだよ?」
「えーそんな。かわいそうだよー。」
「それは認めるが、だってタヌキだぞ? タヌキが仲間って何だ?」
「でも、『わたしを撥ねたんだから責任取って』って言ってるよ?」
「ルンさんや。いまさら聞くのもなんだが、あなたはタヌキの言葉がわかるのかい?」
「え? 普通にわかるけど? この子も晴兄ちゃんの言葉普通に聞いてるよ?」
「くっ……! このオレだけ仲間外れのような感覚は何なんだ……」
「仲間にしてあげましょ? 可愛いですよ?」
「……仕方がない。撥ねてしまったし、保護するのが人の道か……。」
タヌキが仲間に加わった!
タヌキは喜んで軽トラの荷台に駆け込んだ!
「あれ? 荷台には緒方巡査が載ってるはずだが?」
何の反応もない荷台を訝しんでその中をのぞくと、先ほどの急ブレーキでひっくり返っておパンツ丸出しになっている緒方巡査の姿があった……。
◇ ◇ ◇ ◇
「またパンツ見られたー!」
「オレは悪くない」
「志穂姉ちゃん、セキニンとらせる?」
「キュー」
「まあ、パンツはどうでもいいとして」
「良くないです! 乙女の尊厳です!」
「まあまあ。今はとりあえずパンツよりタヌキの方だ」
「晴兄ちゃんはタヌキのパンツが好みなの?」
「パンツの話から離れなさい。」
「てへっ」
オレの目の前には駐在所の床の上ですっかりくつろいでいるタヌキ様がいる。
「駐在所って動物飼ってもいいのかな?」
「警察法か警察官職務執行法に書いてませんかね?」
「けーさつほう?」
「まあ、とにかく上司に報告ってとこかな」
「この場合地域係長ですか? それとも警務係長ですかね?」
「うーむ、報告の前に、恩田課長に相談するか」
恩田課長にルンから相談の電話をさせたところ、その30分後には犬用の首輪と長いリードと犬小屋を購入した恩田課長が駐在所に突入してきたのであった……。
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