第88話 緊急配備③
ひき逃げの緊急配備の待機時間を過ぎ、そろそろ駐在所に戻ろうかとしていたところに、左前部場バンパーをへこませた白のRV車が通りかかるのが見えた。
「あれかもしれない。よし、追跡だ。」
「なんで、こんな時間に反対方向であるこっちに来たんでしょうかね?」
「さあな。もしかすると、どこかでほとぼりを覚ましてから逃走しようとしているのかもしれないし、それに、まだあの車が犯人と決まったわけでもない。取り合えずは職質してみないと。」
「そうですね」
オレは赤色灯を点灯させて白のRV車を追尾する。
「前の車、止まって下さい」
相手が逃走をはかるかと思い身構えていたが、予想に反してRV車はあっさりと左にウインカーを出して停車した。
緒方巡査が軽トラパトカーを降りて職質に入る。
オレが運転席から降りないのは、相手が急に車を発進させて逃走したときに速やかに対処できるようにするためだ。
エンジンを停止させ、運転免許証を預かった緒方巡査がこちらに目くばせしてくる。
エンジンを止めたということは、逃走の意思はない、あるいは逃走するにしても発進まで少しの時間があるので、軽トラパトカーの運転席からオレが降りて職質に加わっても大丈夫なことを意味する。
軽トラからある程度離れることのできるようになったルンも助手席から降りて、RV車の助手席側から近づいていく。
「こんにちは。停まってもらってありがとうございます。少し質問させてくださいね?」
職質を始めると、RV車の運転手である20代半ばと思われる男性は、憔悴した感じで運転席でうつむいている。
「今、どちらから来られたんですか?」
男性は黙して語らず。
「今日は、これからどちらに向かわれるご予定ですか?」
男性は黙して語らない。
これは、決まりかな。
核心を突く質問に変えてみる。
「お車が潰れていますが、どこかにぶつけられましたか?」
その質問を投げかけた瞬間、男は反応した。
「人を轢いてしまいました! すみませんごめんなさい。怖くて、どうすればいいかわからなくなって……パニックになって逃げてしまいました……すみません」
「わかりました。詳しいお話をお伺いしますので、これから署のほうにご同行願います。あ、パトカーが迎えにくるまで少し待ってくださいね。それと、お車の鍵をいったんお預かりさせてください」
オレはRV車の鍵を男性から預かり、無線で応援を呼ぶべく軽トラの方に戻る。
「――上中岡移動から晴田本部、丸舘交通。」
「――晴田本部です、どうぞ」
「――丸舘交通、どうぞ」
「――ひき逃げの件、上中岡丁字路にて該当車両を発見、職質したところ、撥ねたことを認める供述在り。至急、任意同行の応援願う。」
「――晴田本部了解!」
「――丸舘交通了解だ! 今すぐ向かわせる!」
さて、あとは応援を待つだけだ。
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