第89話 緊急配備④

 応援を頼み終えたオレは、RV車の方に戻る。


「……僕、怖かったんです。人を轢いてしまうなんて初めてだし……。これからどうなるのかなって……。親にも顔向けできないし、彼女にもふられてしまうかもしれないし、会社だってクビになるかもしれない……。怖くて、どうすればいいかわからなうなっちゃって……。お巡りさん! 僕は捕まるんですか? 僕は、どうすればよかったんですか?」


「そうだね。捕まるのは不安だし、怖い事だよね」


 ルンが男性の言葉に応えていく。


「でも、ちょっと考えてみて。突然車にはねられて、その場に倒れたままになった人はどういう気持ちになったのかな?」


「……」


「その人だって、怖くて、どうすればいいのかわからなくて、自分がどうなっちゃったのか不安でどうしようもなかったと思うの。」


「……」


「そんなとき、誰かが声を掛けてくれたなら。大丈夫かって、救急車呼ぶからなって、そう声を掛けてくれる人がいたら、少しは安心できたんじゃないかな?」


「……そっか、僕はーー」


「そう、怖くて、パニックになったのはあなただけじゃなかったんですよ?」


「僕は……轢いてしまったあの人に声を掛けるべきだったんだ。大丈夫ですかって、ごめんなさいって。そうすれば、あの人の苦しみや混乱を少しでも助けてあげられたんだね……」


「そうですね」


「僕も、お巡りさんに見つけてもらって、捕まるのは恐かったけど、ホッとしたんです。捕まえてくれて、ありがとうございます。あの……、僕が轢いた人は、大丈夫だったんでしょうか……?」


「救急車で運ばれたけど、命には別状なかったそうだよ」


「そうですか……よかった。いや、良くはないんだろうけど。謝りたいです。そして、償いたいです。」


「ああ、その気持ちがあれば、君はやり直せるさ。」


「はい」



 そんな会話をしていたところに交通課の応援パトカーが到着し、男性はパトカーで本署に連行されていった。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「やっぱり、ルンちゃんの声掛けは効きますね! あれほど心に響く言葉はなかなか掛けられませんよ!」


「ああ、そうだな。オレも緒方巡査も出る幕がなかったな」


「えー、でも、わたしなんかちょっと心が素直になってくれる魔法使ってるからなー。こういうの、こっちの世界じゃズルとかチートとか言うんだっけ?」


「まあ、チートだな。」


「警察関係者のチート持ちって、何気に最強っぽくて恐ろしいんですけどね」


「あー、ひどーい。」


「ごめんごめん。おわびにたこ焼き買ってあげるからね」


「わーい、許しちゃう」


「おまえらまだ食うのか」



 無事にひき逃げ犯の検挙に貢献したオレ達は、和気あいあいと駐在所に帰るのであった。

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