第84話 交通安全教室③
「じゃあ、正しいと思うやり方で、この横断歩道を渡ってもらいましょうか!」
長谷川巡視員がそう言うと、そのクソガキは意気揚々と石灰で描かれた横断歩道を渡り切った。
「渡れたね~。じゃあ、今キミは手を上げることも、左右を確認することもしなかったけど、その理由をおしえてくれるかな?」
「は? さっきも言ったじゃん。こんなところ車が通るはずないんだから、手をあげるどころか左右を見る必要だってないんだってば! それに、こんな田舎じゃろくに車も通らないんだから、グラウンドじゃなくてホントの車道に行っても同じだと思うんだけどな!」
お? クソガキがすこしムキになってきたな。長谷川さんってガキを煽るの巧いのかな?
「そっか~。キミはそう思うんだね! じゃあ、うさぎさんともう一回渡ってみてくれるかな?」
そう言われたガキは、めんどくさいみたいな顔をしながらも、となりに現れてがっちりと肩をつかんだうさぎさんの妙な威圧に気圧されたのか、どうやら素直にもう一回渡るようだ。
よし、オレの出番だな!
うさぎさんに伴われ、ガキが横断歩道へ一歩を踏み出したその時、
オレは軽トラのギアをドライブに入れ、アクセルを踏んで急発進させる!
先日、逃走するフェア〇ディの追走中に突然現れたオートマギアについている不思議な第2のボタン――、軽トラを超加速させるそのボタンの事を、『オーバードライブ』(O/D)ボタンをもじって『オーバーザトップ』ボタンと呼ぶことにした。決してラグビーの反則の事ではない――のボタンを押し、さらに軽トラとは思えないような急加速!
軽トラは、瞬く間に石灰の横断歩道を渡ろうとしたガキの目の前に現れ、そして横断歩道の手前で急停止する。
突然の軽トラの出現に、ガキは驚き、身体をこわばらせ一歩も動けないでいる。万が一のためにうさぎさんに扮した緒方巡査がその子の身体を、飛び出さないようにしっかりと押さえてはいるが。
「おや~? 車なんか来ないって言ってたけど来ちゃったね! もしあのまま渡っていたら、事故に遭ってしまうところでしたね~! あぶないあぶない!」
長谷川さんはそう言うと、助手席にいるパンダの着ぐるみを着たルンにマイクを手渡した。
「交通事故に遭いたいと思って事故を起こす人はいませんよね? 車に轢かれたいと思って轢かれる人もいませんよね? みんな、事故に遭った人たちは『自分は大丈夫』とか、『車なんて来ないだろう』って思っちゃうんですね。だから、車なんて来るはずがないなんて思いこまないで、ちゃんと右を見て、左を見て、もう一回右を見てから、手を上げて横断歩道を渡ることが大切なんですね!」
「「「「「は~い」」」」」
ルンの言葉に、子供たちはみんな納得してくれたようだ。
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