第81話 保護範囲の拡大

 さあ、検証を始めよう。


「よーし、ゆっくりいこうか……まずは5mまでは大丈夫だな。」


 ルンは軽トラを起点にして5mのところまでは余裕の表情。

 緒方巡査は不測の事態に備え、酸素吸入スプレーを持ってルンのすぐそばに待機している。


「さっきはどれくらいまで離れたんだ?」


「目測で、だいたい7から8mくらいでしょうか。」


「よし、じゃあルン、ゆっくりな。」


「はい」



 ルンはゆっくりと、小刻みな歩幅で軽トラから距離を取る。


 7m地点までは50センチ刻み。8m地点までは20センチ刻みで移動し、いまだ身体には何の以上も現れていない。


 そこからは、10センチ刻みで移動する。


 9m、10m、11m……


 まだルンの身体に異常は現れない。



「これは……今までの2倍以上だな」


「はい、20mまで行けば、ルンちゃんは私のお部屋で一緒に寝られるんですけど……」


 いやいや、若い女性が二人で寝るなどと百合百合しいことを言うんじゃない。


 12mを超え、更に60センチ進んだところでルンが胸を押さえてうずくまる。


「ルン! 戻れ! もう十分だ!」


 すかさず緒方巡査がルンを抱き起し、軽トラの近くにまで移動させる。


 するとすぐにルンの顔色は元に戻った。ふう、どうやらそれほど大事には至らなかったようで良かった。



 で、結果としては12,5m。これが、今のルンが軽トラから離れられる距離という事になる。


「惜しい! もうちょっといけたら、私の官舎のお風呂が丸々圏内に入っていたのに!」


 だから百合はやめろと。いや、既に軽トラ風呂で一緒に入っているから今更か。



 まあ、これでルンの行動範囲が広がったことは確かだ。これは素直に喜ばしい事だな。


 だが、もう一つの検証が残ってる。


 それは、、ルンの行動可能範囲が広がったのかという原因捜しの検証だ。


「ルン、なにか思い当たることはあるか?」


「はい、思いっきりあります」


 なんだと?


「以前、セヴル兄達と魔道具スマホでの会話ができるようになった時の、神様? が、なんか言ってました。この世界で、人のためになることをしなさいって。」


「そうか、そういえば、そんな話もあったな」


 それにしても、人のためになる事とは一体?


「まずは一番最初に、小学生が拾ってきた100円をおばあちゃんに返せましたよね。そういう事じゃないんですか?」


 と、なると。


「それ以降で思い当たる事と言えば、交通安全週間のパンフ配りとか、無免許運転の検挙とか、先日の万引き少女の件とかかな?」


「ですね。あのパンフ配りで慎重な運転を心がけて事故を逃れた人もいるかもしれませんし、無免許の人は、まさに命を救ったと言ってもいいですし、万引きの彼女は、ルンちゃんの言葉で見事に更生しましたからね」


「ということは、ルンがこの世界での警察活動に関して行った貢献度によって、活動範囲が広がっていくという事か!」


「そうだと思います!」


「よし、じゃあ、これからますますお仕事に励まないとな」


「「はい!!」」


  

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