第77話 たこ焼きころころ

 ルンと緒方巡査を乗せた軽トラは、すぐに運動公園の駐車場に到着した。


 ここまでの所要時間約8分。幸い、たこ焼きはまだ熱々のようだ。


「よーし、じゃあ、いたー! だけにー! はふ、はふ、あっつ!」


「いただきますー! あっつい! はふ、でも、おいひい!」


 若い娘ふたりが軽トラの車内でたこ焼きを頬張るというなかなか珍しい絵面ではあるが、溌溂はつらつとした二人の若さと明るさがその珍しさを感じさせず、むしろ青春映画のワンシーンかのようにも見える。



「あっついの食べたら身体もあっつくなってきちゃったね。窓開けよっか? えーい、周りに誰もいないし、ドアごと開けちゃえー!」


「あけちゃえー!」


 緒方巡査とルンは、思いっきり軽トラのドアを開け放ち、さわやかな風をその頬に受ける。


「うーむ、ルンさんや。こうしてお外で食べるたこ焼きもおつなものじゃのう?」


「そうですな、志穂姉様や!」



 ルンが最近はまっている時代劇の口調を真似て、ご機嫌な二人。





 で、そんなにはしゃいでたこ焼きを食べるとどうなるかというと、


「あっ!」


 なんと、ルンのたこ焼きが一個、手元の皿から転がり落ちて車外まで転がって行ってしまった。


 思わず軽トラから降りてそれを追いかけるルン。


 

 地面に落ちてしまったタコ焼きはたとえ拾ったとしてももはや食べることはかなわないのだが、異世界にいた時の名残もあって食べ物を粗末にできない性分のルンは、反射的に転がるたこ焼きを追いかける。


 たこ焼きは思いのほか転がる勢いは強く、軽トラからどんどん遠ざかっていく。


「ルンちゃん! 危ない!」


 そうだ。ルンは軽トラから5m以上離れると命の危険があるのだ。


 強く叫んで制止した緒方巡査だったが、その声もむなしく、ルンの身体はたこ焼きを追って5m圏内の外に。



「ああっ!」



 軽トラの運転席から飛び降りてルンの後を慌てて追ったが、いかんせん車体の反対側から回り込んで走ったのでは間に合うはずもなく。


 そうして、ルンは……






「あーあ、これ、もう食べられないよねー」


 平気な顔をしてたこ焼きを拾っていた。





「えええええええええええーーーーー!」



「どうしたの? 志穂姉ちゃん?」


「どうしたのって! ルンちゃん! 平気なの?」


「平気って? 何が?」


「距離! 軽トラから離れてるよ!」


「あっ! ほんとだ!」



 ルンと軽トラとの距離は、だいたい7~8mだろうか。


 生存圏内の5mを超えていることはひと目で分かった。


「「どうしてーー?」」


 不思議な現象に首をかしげる二人だが、残っていたたこ焼きはしっかりと冷める前に完食していたのであった……。

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