第76話 非番とたこ焼き

「「いってきまーす」」


 ルンと緒方巡査が買物に出かけた。


 普段は制服姿の二人の私服姿を見るのもまた新鮮な感じだ。


 ちなみに、ルンと緒方巡査は非番だがオレは普通に仕事だ。駐在所の全員が一緒に休みなんて普通は考えられないからな。


 今日は普通車モードの軽トラは、もちろん緒方巡査が運転している。


 さて、この駐在所に1人っきりでいるのもなんだか久しぶりのような気がする。


 なんだかさみしさを感じないわけではないが、ちょっと前まではこれが当たり前の毎日だったのだ。


 よし、今日は真面目に仕事をするか。いや、いつもさぼっているわけでは決してないのだが。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「さーて、ルンちゃん! どこ行こっか! なにか欲しいものとか、食べたいものとかない?」


「あ、じゃあ、あれあるかな? このまえ、『てれび』に映ってたあの『たこ焼き』! 向こう異世界ではね、あのたこ焼きはお祭りの時とかにしか食べられないご馳走だったんだよ!」


「へーえ、そうなんだ! じゃあ、今日はたこ焼き屋さんに行ってみよー!」


 と、まだお昼にもそれなりの時間があるにもかかわらず、軽トラは一路たこ焼き屋のあるショッピングモールへと向かう。まあ、ショッピングモールと言っても所詮は田舎。

 それでも、奇跡的にそこのフードコートに出店している全国チェーンの有名たこ焼き屋が存在するのだ。

 ルンは軽トラから降りられないのでテイクアウトを頼んで、軽トラ車内で食べることになるのだが。



 ショッピングモールの駐車場に到着し、緒方巡査はスマホを起動し、『豊洲銅ダコ』のメニューを開く。


「ほら。何種類かあるけど、ルンちゃんはどれがいい?」


「うわあ~、たこ焼きって一つの味だけじゃないんだ~! 迷っちゃうな~!」


 スマホ画面のメニューを覗き込んでいるルンだが、慣れない日本の商品名に味のイメージがつかめないのか、なかなか決められない様子。


「じゃあ、今後の食べ比べの事も考えて、一番オーソドックスなやつにしておこうか! ルンちゃん、それでいい?」


「うん! 志穂姉に任せるよ!」


「了解! じゃあ、買ってくるからちょっと待っててね!」


 そう言って開店早々のテナント店に向かう緒方巡査。こんな田舎で開店してすぐに若い女性の客が来るのは珍しい事だろう。



 無事、定番のノーマルたこ焼きを2人前購入して戻ってきた緒方巡査。



「どうする? ここで食べる?」


 とはいってもここはショッピングモールの駐車場。若い女性二人がおやつを食べるにしては少々どころかまったくそぐわない場所である。


 結局、短い話し合いの結果、近くの運動公園の駐車場まで足を伸ばすことになったのであった。 


 


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