第68話 帰りたい帰りたくない

「へえ~、そんなことになってたんですか~」


「ああ、オレも驚いた。まさかそんなことになっていようとは」



 熊岱市でのダンジョン調査に同行したのち、駐在所に戻ってから中で調査官の方に聞いた、ダンジョン調査の内容をルンと緒方巡査に教える。


「で、どうだ? ルンは、ダンジョンの側に行って何か感じなかったか?」


「んー、なんとなくだけど、あのダンジョンの中に入れば何かわかるかもしれないなって感じはしたかな。確証はないんだけど」


「そうか。ルンもダンジョンに入れればいいんだけれどな。」



 ルンは軽トラから離れられない。


 ルンがダンジョンに入るためには、軽トラごと入っていくしかないのだが、ダンジョンの中ではエンジンなどは動かないらしい。


 なので現状、ルンがダンジョンに入ることは不可能という事になる。


 ちなみに、ダンジョンの中に入って機能が停まったオレのデジタル腕時計は、ダンジョンから出ると時刻を調整せずとも正確な時刻を示していた。2時間は止まっていたはずなのに。

 時計メーカーの技術が優れているのかとも思ったが、どうやらこれもダンジョンの謎能力らしい。



「そういえばルンちゃん? ルンちゃんはダンジョンの事についてやけにあっさり受け入れているけど、もしかして向こうの世界にもダンジョンってあったの?」


「え? うん。あったよ。わたしも一回だけセヴル兄達と潜ったことあるよ」


「へー、向こうのダンジョンってのもやっぱり、魔物とか宝物とか出るの?」


「うん。でも、その時の魔物はわたしたちより強くて、結局最初の階層ですぐ引き返してきちゃったから、詳しい事まではわかんないかな」


「そうなんだ。」


「うん、わたしたちのパーティーはそんなに強くなかったからね。角ウサギは余裕で狩れても、角イノシシだと苦戦しちゃったし。ダンジョンの灰色狼なんて、ソヴル兄が吹っ飛ばされちゃって、どうにか逃げ帰ってきたくらいなの」


「へっ、へえー、向こうではウサギやイノシシに角が生えているのね……」


「うん、普通のもいることはいるんだけど、たいがい魔物化しちゃうか、他の魔物に食べられちゃったりするから、圧倒的に角が生えた奴の方が多いんだよ」


「なんか普段は感じなくなっちゃったけど、こうして話しを聞くとやっぱりルンは別の世界から来たんだなって思い知らされるな。」


「わたしもすっかりこっちに慣れちゃったもんね。でも、どうしたらいいんだろう。確かにセヴル兄たちのところに帰りたいけど、晴兄ちゃんや志穂姉ちゃんとも離れたくないよ。もし向こうに帰れることになったとしても、わたし、どうすればいいんだろう……」


 オレと緒方巡査は二人でルンの頭をなでて慰める。


 たとえルンが迷っているとしても。それでも向こうに帰る方法は探し続けなければならない。


 どうにかしてルンがダンジョンに入れることが出来れば、その手掛かりもなにかしら見つかるのかもしれないのだが……。


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