第67話 ダンジョン調査⑤

 オレ達がダンジョンの調査を終えて地上に出ると、オレの悪い予想は当たっていた。



「お嬢ちゃん! 警察なんかやめてウチに来なさいって! 給料は今の2倍あげるから!」



 あの社長さんが、軽トラの助手席にいるルンに対してリクルートを行っている。


「お嬢ちゃんがウチの会社の作業服を着て、ホームページとかテレビCMとかに出ればうちの会社のイメージは爆上がりになる! もちろん、実際は事務室で電話番くらいしてくれてればいいんだ! あんな危ない作業現場になんて絶対に出させないから! だから、な! 明日からでも、いや、今からでもいいから! な!」



 緒方巡査が隣で「ご遠慮ください」と連呼しているが、社長さんは全く聞く耳を持っていない。ある意味豪傑だなこのおっさん。


「すみませーん、これから移動しますので、これ以上は公務執行妨害の適用もあり得ます。ご遠慮ください。」


 オレが助け舟を出すと、社長はオレをにらみつけながら退散していった。にゃろう。

 

 その社長を半ば無理矢理捕まえた調査官の人が、ダンジョンの調査結果を説明している。うん、説明の体を取ってこっちから引き離してくれたみたいだ。ありがたい。


「えー、このダンジョンは迷宮型、類推で深度5層、【脅威度】は下から3番目のEランク、【資産期待値】も下から3番目のEランク。【成長可能性】はFランクで、推定評価額は160万円ですかね。後日、改めて正式な文書は送付いたしますが。で、売りますか? どうされます?」



「160万だと! そんなはした金で売れるわけないだろう! だったら、この損害を補填しろ! このダンジョンとやらが重機の車庫にできたせいでこの車庫は使い物にならん! この車庫の建て替えの代金を支払いたまえ!」


「残念ながら、ダンジョンの発生は自然災害扱いとなりますのでそのような保証は致しかねます。ご愁傷さまです。」


「なんだと! だったら泣き寝入りするしかないというのか!」


「民間の保険会社の商品で、建築物への保険をかけていれば支払いを行っているケースもあると聞きます。お問い合わせになってはいかがですか?」


「車庫に保険なんぞかけているわけがないだろうが!」


 あーもう、いくら仕事とはいえ聞いてて腹立たしくなってくる。こういう輩はとりあえず文句を付けないと気が済まないんだろうな。


 まあいい。ここでの仕事は終わったのだ。あの社長がまたルンに粉かけてくる前に退散するとしようか。


 オレは手早く、熊岱署の部長さんや自衛隊の方、そして調査官の方にお礼と挨拶を済ませ、駐在所への帰途についた。

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