第65話 ダンジョン調査③
ダンジョンに入る扉をくぐった瞬間、オレの腕時計のデジタル表示が消えた。スマホの電源も入らず、無線機も沈黙している。
どうやら、この現象は世界中で確認されているらしく、もはや常識となってきつつあるらしい。
「自衛隊でも、装甲車や軽戦車で突入を試みたことがあったが、中に入った瞬間エンジンが止まってな。全く動かなくなってしまって、引っ張り出すのに苦労したと聞いている。」
今度は自衛隊の人が話しかけてくる。
自衛隊の人は、ショットガンとでもいうのだろうか。貫通力も破壊力も高そうな、銃身の長い銃を今すぐにでも撃てるような感じに胸に抱いている。
見ると、熊岱署の巡査部長さんも、拳銃ホルダーの留め具を外し、すぐに抜けるようにスタンバっている。
そうか、そういえば、ダンジョン内には魔物と呼ばれる異形の生物が出るんだったな。
危険に対する感覚が欠如していたオレは、舌打ちをして拳銃ホルダーの留め具を外し、銃把に手を這わせる。
そして、実際の調査を行う調査官を見ると、自衛隊員に護衛されているからなのか、余裕のある表情でカバンから書類を取り出している。
すると、調査官の方は、
「ああ、大丈夫だとは思いますが、いちおう警戒はしておいて下さい。ダンジョンの最初の部屋は、例外を除いて魔物は出ませんから。あ、まれに大きな音に反応して魔物が湧きだすことがあるという報告もあるので気をつけてくださいね」
と、なんとも余裕のあるというか、リラックスしすぎているというか、悪く言うと緊張感がない。
場慣れしているのだろうか?
場の緊張感にも耐えかねてきたオレは思わず口を開いた。
「調査官の方は、どんな調査をするんですか?」
「ああ、調査ですか。なに、ここで小一時間ほど時間を潰すだけですよ?」
「え?」
調査が、時間を潰すだけ?
気になったので詳しく聞こうかと思っていると、時間を持て余しているのか、調査官の人が自ら語り始めてくれた。
「ああ、ダンジョンの大きさは、実は調査に入る前にすでに判明しているんですよ。地震波と言えば分かり易いですかね? 気象庁の各観測地のデータを基に、地震波の強さや波の波形でおよそ判別できるんです。約87%の確度ですけどね。あ、申し遅れましたが、私たち調査官のほとんどは気象庁からの出向なんですよ。」
「そうなんですか?」
「実はそうなんですよ。ちなみに、危険度とか、資産期待値とかもありますけど、これはだいたい、『ダンジョン素』の強さから推し量っています。ああ、ダンジョン素というのは、ゲームなんかやる人だと『魔素』って言った方がイメージしやすいですかね。で、それは、なんとこれで測ることが出来るんですよ」
調査官の人がそう言って取り出したのは、なんと水銀体温計だった……。
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