第64話 ダンジョン調査②
社長さんが全力でゴネているとき、県の調査官の人はおもむろに懐に右手を入れ、一枚の書類を取り出した。
「どうしても拒否されるというのであれば致し方ありません。できれば任意で応じていただきたかったのですがね。」
そう言うと、とりだした書類を広げ、社長さんの前に見えるように突き出した。
「県の行政代執行命令書です。ちゃんと知事の印も押されています。この措置には強制力があり、これを拒否される場合は有形力の行使にて排除がなされる場合もございます。この処分に不服のある時は本日から14日以内に申し立てをしてください。」
「そんな! ここは、ワシの土地なんじゃぞ!」
「それでは、自衛隊の皆さんも到着したようですので、
おおう、行政代執行……。逮捕状や捜査令状は見たことがあるが、これは初めて見たな。
というか、この社長さんの態度からしてこの事態は想定されていたわけか。事前に書類の準備とかで手続きしていたという事だな。
社長さんはまだ不服そうな顔をしているが、さすがにダンジョンに立ち入る調査官やオレ達警察官を体を張って止めるようなことはせず、ぐちぐちと文句を言いながらもダンジョンに入るオレ達を見送っていた。
「緒方巡査、面倒毎になるかもしれん。ルンの側についていてくれないか」
「もちろんです! ルンちゃんは私が守ります!」
さすがに、軽トラから離れられないルンをダンジョンに同行することはできないし、仮に軽トラから離れられたとしても、交通指導隊員という立場では同行は難しいだろう。
ルンにもダンジョンの中を見せてやりたかったのだが、仕方がない。
ルンを一人この場に残して、あの社長に絡まれてはたまらないので緒方巡査にも残ってもらった。緒方巡査の冷たい笑顔による拒絶はあの社長にも通用するだろう。
ダンジョンに降りる階段を歩く。
この幅でこの傾斜……、軽トラごと入れないこともなさそうだな。
ふとそう思ったオレは、同行している熊岱署の巡査部長さんに質問する。
「中には魔物とかいるんですよね? じゃあ、この中に車ごと入ってみるのはダメなんですかね? うちの軽トラなら4WDなので何とか入れそうなんですが?」
「ああ、それは無理ですね」
オレの話を聞いていた調査官の人が会話に入ってくる。
「なんでかはわかりませんが、ダンジョンの中では電子機器とか、ガソリン動力とかの類が一切動かなくなるんですよ。見ててください。あの扉をくぐれば、スマホも無線機も、腕時計すらも止まってしまいますから。」
調査官さんのその言葉の通り――、
ダンジョン入り口のドアをくぐった瞬間、オレの腕時計のデジタル表示が消えた。
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