第63話 ダンジョン調査①
「ここはワシの敷地だ! だから、県の調査などいらん! このダンジョンはワシの物だ! ワシが自分で調査する!」
熊岱市に発生したというダンジョンに到着すると、なにやら怒声が聞こえてきた。
このダンジョンは市内の建設会社の敷地内に発生したらしく、どうやら怒声を発しているのはそこの社長のようだ。
怒声の相手は県庁から来たダンジョンの調査員らしい。お気の毒に。
「このことを知事は知っているのか! ワシは知事とは懇意にしているのだぞ? そんなワシのいう事が聞けないというのか!」
オレは軽トラから降りて怒声のする方に向かい、既に現場に到着していた熊岱署の署員に状況を聞く。
階級章を見ると巡査部長様だ。おっと、失礼のないようにしないとな。
なんでも、この社長さんはダンジョンが出来てすぐ、国や県に報告することもなく自分の会社の従業員たちをダンジョン内の調査に向かわせたらしい。
まあ、その時点では世界中がダンジョンの発生に驚いていて、まだ何の法整備もできておらず国民への通知等も出ていなかったのだから、それ自体はまあ仕方がない。
だが、その探索で授業員たちが魔物と戦い、怪我をして戻ってきたにも関わらず、それを警察や労働基準監督署に届け出もせず更にもう一度従業員たちをダンジョンに向かわせようと命令したのだとか。
これによって、従業員たちはストライキを起こすし、さらに最初に怪我をした従業員らは労災事故隠しと、監督責任義務違反で労基署に訴え出ている最中なのだとか。
「じゃあ、あの社長さんは、ダンジョンの調査の事を事件の実況見分とかと勘違いして、自分が捕まるのを恐れて立ち入りを拒否してるってことなんでしょうか?」
「それもあるとは思うが、なんでも最初に従業員が持ち帰ったマセキ? とやらがけっこう高く売れるらしくてな。どうも、捕まることを恐れているというよりは、金のなる木であるダンジョンを国に取り上げられないか心配しているみたいだな。」
「そうなんですか」
「知事さんと親交があるって本当ですかね?」
緒方巡査も話に加わる。
「どうせ、新年祝賀会とかで一言あいさつしたとか、選挙の時に握手したとかそんなもんだろう。それに、もしそれが本当だとしても、ダンジョン調査の件は国としての取り組みだ。いかに知事とはいえ、例外を認めることなどできはしないだろうね。」
「なるほどです」
「あの社長さんは市議会議員もやっていて、
「なるほど、『大発生』の時にできたダンジョンにしては調査が遅いなと思ったら、こうやって何回も調査を拒否してたんですね」
そんな会話をしていると、県の調査員の方はおもむろに右手を懐に入れてなにやら書類を取り出した。
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