第60話 会議は踊る①

「よーし、では、これから会議を始めます。」


「はーい」


「了解ですー。」



 署長までもが来てしまった宴会から数日後、オレ達3人は駐在所のルンの部屋の中で車座になり、会議の場を設けていた。


 この会議に至った経緯としては、先日の交通安全週間のキャンペーンの折り、ルンがそれに参加したことで注目を浴びてしまい、交通渋滞を引き起こしてしまうほどの人の集まりがあったり、あわやネット上にルンの写真が流出してしまいかねない事態になったことに起因する。


 そもそも、国家機密並みに秘匿する必要があるのではないかと思われるルンが、そのように衆目を浴びるような業務? に就いているのは、国の上層部からの指示と容認によるものらしい。


 いわく、「異世界やダンジョンに関する事柄に深く携わっている存在及びその所有者は、可能な限りその自由意志を尊重する事」という世界共通の大原則が存在する。

 

 それに対し、ルンは「晴兄ちゃんと志穂姉ちゃんの仕事を手伝いたい」という発言をしたことがあるために、通常の駐在所警察官やら交通指導隊員らが就くような業務を行っているという経緯がある。


 だが、先日の騒ぎなどを経て、はたしてこのままでいいのか? ルンの気持ちに変化は生じていないか? といったことを確認するために今回の会議の開催に至ったというわけである。


 この会議は署長の指示によるもので、本来なら署長や幹部連中も参加したかったようなのだが、それだと「ルンちゃんが言いたいことも言えなくなるでしょ」という署長の奥様の一言により、気心知れたオレ達だけで話し合いを行う事になったのだ。

 


「ということで、署長の奥様の計らいにより、気楽にオレたちだけでこの会議を開くことになったわけだが、この会議の内容は上に報告しなければならないという事を、まずは全員認識しておこう。」


「はい!」


「了解です」


「で、さらに確認事項だが、この会議は署長の指示とは言ったものの、おそらくそのもっと上、本部長とか、本店警察庁の長官とか、政治に絡むお偉方の意向も含まれていると考えるべきだろう。当然、会議の報告もそんな上の方にまで上げられると思う。それを踏まえて発言しなきゃならないという事だな。」


「めんどくさいですね」


「こらこら、録音はしていないとはいえ、そういうところだぞ」


「でも、気楽に話するために私たちだけなんですよね? なら、その意を汲んで気楽にお話した方がいいんじゃありませんか?」


「なんか、わたしのために、晴兄ちゃんと志穂姉ちゃんに迷惑かけちゃてごめんね」


「「ルン(ちゃん)は悪くない!」」


「ルンは、そんな気遣いは無用だからな。むしろ、ルンがそんな申し訳ないような気持にならないように、この会議をするんだ。だから、ルンは正直な気持ちをオレ達に伝えてくればいい」


「そうですよ! 私たちはルンちゃんの味方ですからね!」


「うん! ありがとう!」




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